第110話 オシはつや姫。

「カレーにしますか?」


 オレは聞いてみた。


 料理は好きだしそこそこ出来る、出来るけど慣れないキッチンだ、下準備とかしてる時間ないんで、カレーが無難な気がした。


「カレーか、いいな。うん、カレー。そのりょ、りょう…」


 ダメだ。まだ、ここだ。


 まだ、どう呼ぶか決められない。別に気にすることかな?


 望ちゃんから見たらオレなんてただのガキだろう。


 まぁ、いいやここは決めてあげないと無理ぽい。


「望ちゃん、亮介でお願いします。亮介じゃないと返事しませんから」


「えっ、あっそうか。そうなら仕方ない、その亮介―辛さはどうするの、辛いのとか苦手か?」


「辛いのいいですね、辛口行きますか。あっ、でも店くらいは無理かな、市販ルーだと。いいですか?」


「そこは仕方ないよな、よし辛そうなデザインのヤツにしょう」


 望ちゃんは楽しそうだ。


 緊張感が和らいだんだ。こんな言い方失礼だろうけど、その恋愛経験がないと若い、というか幼いのかなぁ。


 望ちゃんはオレより結構年上なんだけど、喋ってる感覚的に同級生とはいかないけど、ちょっと年上の例えば高3とか、大学1年とかの大人先輩ぽい。


 失礼だよな。


「望ちゃん、肉の好みある?」


「好みって、どんな?」


「あ―っ、陽茉ひまちゃん、いやうちの姉なんですけど、薄切り肉大好きなんです。その薄切り肉の料理なだけでご機嫌で」


「おまえ、いや…亮介はお姉さんいるんだ。そうか。私はどうかな、何でも肉好きだけど、陽茉ちゃんか?マネして薄切りにしてみようか」


 この反応はうれしい。


 なんか陽茉ちゃんを認めてもらった気になる。


 ダメだよな、そら『陽茉コン』なんて言われて当然だよ。


「望ちゃん、カレーの付け合せは何派?らっきょ、福神漬?」


「ん―どっちも好きなんだけど、キムチとかも悪くない。今日はらっきょな気分だな、亮介は?」


「オレもどっちも派なんだけど、ピリ辛らっきょってあるよ、これしてみる?」


「ピリ辛か!それで」


 カートを押しながら、望ちゃんはポンポンカゴに放り込む。


 基本お菓子や甘系が多い。甘党なんだな。


 そう言えば料理しないならお米あるのかな、聞いてみるとやっぱり無いようだ。


 いつもは弁当かパックのご飯もしくはナッシュビルで済ませてしまうらしい。


「あのさ、重く取らないでほしいんだけどな。?」


 望ちゃんは『テレテレ』しながらカートを前後させる。『こういうの』って、どういうの?


 重く取らないで欲しいって言うことは、こういう、つまり自宅デート的な。


「あの、逆に来て迷惑とかは?」


「なんでだよ、迷惑ないよ」


「望ちゃんが嫌じゃないなら―」


「そこは頑張れ、ほら私はだって女子なんだ。そういうことは言ってほしいじゃないか」


「じゃあ、来たいです。だから―お米買いましょう、オシは『つや姫』です」




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