第60話 やられたら、やり返す!

「失策って私のことじゃないの?」


 京子はパスタをフォークに絡めながら詩音に問う。


「『死天してん』のこと。あなたの失策は注文。なによ『にんにくマシマシこんがりパスタ』って。女子感ゼロよ」


「大丈夫よ。私地味だし―」


「なに不意に自虐ってんの『地味に臭い』って言われるわよ」


「地味な上に臭いとか。切ないね、ふふっ」

「何笑ってんの、あんたのことだよ」


「新作のことだな?」


 オレは詩音の『失策』と『終わりの始まり』に話を戻す。京子の口が臭い問題は歯磨きでなんとかしてもらおう。


「京子に計算あったとは思えないけど『キレた』の正解。あんな安い挑発に乗るなんて。しかも―」


「期限切っての完全にオリジナル新作―」


「コピーばっかの『死天してん』ハードル高い。成功例しかないから『やれる』って思い込んでる分。行き詰まる、そう期限切った分プレッシャーもある」


「焦るってこと?」


「そうよ、あんたが。しかも苦手の『先手』を切らせるとか。天才かよ」


 そう言って詩音は京子の頭を撫でる。見てる方が恥ずかしい、ホントにオレいらないんじゃないの?


「亮くん、私さ怒ってるの」

「怒る?オレにか?」


「そうよ。私、ううん。私たち亮くん酷い目にあわされて激オコ―なのに終わった気になってる。争い事キライなの私もだよ」


「ヤラれぱなしは舐められるで」


 明日臭くなる予定の人からも言われた。


「私ね思うの『やられなくない』なら『やらなきゃいい』の『やった以上はやられる』の。この考えおかしい?」


 京子とは対象的に詩音はサラダとミニドリアを食べてる『そんなんでなんで胸おっきくなんだろ』と呟いてる。声に出した感覚はないらしい。


「何か考えあるの?私乗る」


 京子は早々に詩音に賛成した。別にオレも反対はしないが―


「亮くん、明日は土曜でバイトだよね。ここナッシュビルで」


「亮ちゃん辞めないの?」

「京子ムリ言わない。そんなのお店に迷惑。お店関係ないでしょ、だよね亮くん?」


「気まずいけど他のスタッフさんには関係ないし」


 そんなのはホントきれい事だ。気まずいし、気分が悪い。気分が悪いけどお客商売なんで笑顔だろ?難易度高過ぎだけど。


 前回頭からジュース掛けられて望ちゃんにあんなによくしてもらったんだ。不義理だけは出来ない。それを言うと詩音の傷を触りそうなので言わない。


「―なに仕掛けるんだ」


「駄目。亮くん顔に出るから」

「オレ顔に出るかな?」


「出てるよ。例えば『詩音大好きだよ』とか」


「亮ちゃんゴメンネ。後で私からちゃんと話しとくわ。ちょっとイタくて妄想癖あるだけだから、ね?根はいい子なんだよ、多分」


 京子は半笑いで詩音を庇う。庇われてる詩音は唇をツンとして抗議した。『多分ってなによ』と。








 









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