第176話 バカなのコイツ。

 咲乃の望むシチュエーションとやらはこうだった。乱暴にパンツを脱がされ、脱がされたパンツを口に突っ込まれ下をめちゃくちゃにされる、こんな感じだ。女子じゃない、ほぼおっさんの発想だ。しかも咲乃の説明は熱を帯びる。

「だから『下』を『舌』でめちゃくちゃにされるわけ」内容的にアレだし、ダジャレだし。どこまで本気か測りかねるが(きっと全部本気なんだろう。真っ向勝負の咲乃だからな)亮介は納得した。


「異次元でした! いや異世界!?」亮介は望まれるままに答えたのだが、咲乃はご満悦のようだ。口を塞いでるので声はあまり出てなかった。昼みたいな声出されたら、流石に誰か起きてくる。その事は咲乃には内緒にした。時間も時間なので果てた咲乃は『くたっ』とした。油断したら寝てしまいそうな目をしている。

「亮介はいいの」わざわざ尋ねてもらったものの、おネムを抑えてまではよかった。


「それより『地雷』の話しいいのか?」

「昼間まではね、こだわってた。ふたりでこうなる前まではね。何ていうか…バイト中に亮ちゃんのこと聞かれれば聞かれるほど『ざわざわ』した『あんたのほうが深い関係』でしょ、ってキレたくなった」咲乃は目をしょぼしょぼさせながら続ける。

「亮ちゃん、思ってたことを思ってたように言うけど、いいよね?」

「いいよ」


「私さ結構凹んでたの、望さん選んだ亮ちゃんの選択に。なんていうか、言葉に出来ない焦りかな? わかんないけど。京子とか詩音となら、可能性ありそうだけど、望さんになると『割とガチ』でしょ? でもさ…昼からのこととか、さっきの話で名前上がらなかったでしょ? アレ終わってんじゃないって、今こんな感じ。当たってる?」


「ハズレ」

「あ…ハズレか。じゃあまだ続いてんだ。それちょっと聞きたくなかったかな」

「それもハズレかな」

「ん? これがハズレとな?」

「終わってない」

「だから聞きたくないって」

「聞けよ。終わってないのは『始まってもない』から」

「始まってもないってどういう意味よ」

「咲乃は何想像してるかわからんでもないけど、現実は全然だ」

「現実を聞かせてちょ」

「部屋に行く。洗濯をする。料理を作る。ちょいちょい『経営学部』の大学に行ってほしいと言われる。疲れて帰る。疲れきって部屋に寄り付かなくなる、以上」

「えっと、それだけなの?」

「たまに食材をスーパーに買いに行くくらい」

「私くらいの関係にはなってるよね?」

「手を握るくらいにはな。オレがわざわさわお前にウソつくと思うか」

「思わない、いやたまに『そこは嘘も方便』だろと思う。バカなのコイツって時ある」眠いことをいいことに毒を吐く咲乃だった。

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