第134話 足りないもの。

 この1年京子は考えた――なぜ亮介に『捨てられたのか』を。厳密にはお別れしただけで捨てられてはいない。


 構ってほしくても、構うのめんどい症候群。――長い。


 ここ―修正しないと。


 しかし、ここを修正したところで、それは単なるスタート地点。


 カレシ―カノジョが構い合うのなんて当たり前。なので『がんばって構ってる』はなんの『アドバンテージ』にもならない――


 いやむしろ恩着せがましく『面倒な娘』でしかない。


 京子にしては奇跡的にここまで辿り着いた。


 まさに、人類の進化と讃えてもいいくらいの進化―バージョンアップである。


『京子改Ⅱ』といってもいい。


 しかし―それでも何か足りない。何が足りてないか京子は考え続けていた――その朝も。


 場所は北町家――洗面所。


 京子は洗面所の鏡の前で黒キャミ姿で濡らした手で乱暴に髪をオールバックにする。


 そして鏡に話しかける――


「ダメだ、関西弁と黒パンツだけじゃ――キャラ的に薄い。ダメだ、考えろ――」


 両手にすくった水で派手に顔を洗いながら繰り返す。


(いや、色々ダメだよ、おネエ…考えろって、ほんと考えたほうがいいよ、怖いわ――私と思うんだ、たぶんだけど――)


 偶然通り掛かった雅が怯える。


「雅」

「は、はい!」


「今日。先行くわ」

「えっ、もう?6時だよ」

「そうね――」


 ギロリと睨まれた雅は慌てて視線をそらす。私いるの気付いたんだ――改めて京子のピリピリ感に雅は焦る。


(な、何?どんなアニメに影響受けたの!?それ影響受けちゃダメなやつだよ―)


 そんな雅の気持ちを置き去りに――京子は颯爽と家を出た。


「どうした、京子―こんなとこまで。出待ちか?」


 京子の『ピリピリ感』など知らない亮平は、呑気な言葉を掛ける。場所は亮介の自宅前――


 京子はわざわざひと駅戻って亮介の家に足を運んだ。


「迎えに来たんだ、


 雅に見せた『ピリピリ感』満載の思春期ガールはどこへやら。にこやかで柔和な微笑みを浮かべる。


 そう言えば――京子に『亮ちゃん』と呼ばれるのは――久しぶりだ。どれくらい振りかもよく覚えてない程だ――亮介は思った。


 何かを嗅ぎつけてやって来た――訳じゃない。望との話し合いは誰にも言っていない。つまり――ハーレムモードについて。


(望さんがわざわざ言うわけない――京子の勘の良さ、か)


 深読み――してもいいが、ここは状況に身を委ねても―おもしろい。


 出たとこ勝負だ。亮介は早々に登校の準備を整え京子の隣に立つ。


 京子は穏やかな笑みを浮かべる――こんな笑い方―したか?


 亮介の心に少しだけ――警戒心が芽生えた。
















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