第54話 旅立ちの時。
「私は自信がないんだ、だからいつもは『よかったら使って』とかで逃げ腰なヤツなんだよ」
詩音は口元をクイッと結ぶ。その意味するところはなんだろ。
いつも自信のない態度を取る自分に対しての『しかめっ面』なのか、『決意』なのか。
長めの息を吸い込み目を見開いた。『決意』の方なんだな。
「自信ある、君の話に誰より『君の思い』に寄り添える絵を描ける、描くよ!描くんだ!!これ『グチッター』のプロフのアイコン。こっちはヘッダー用、私の絵で『
なんだよ、朝っぱらから暑苦しいなぁ。まだ春だぜ。たく、熱くなりやがってさ。
メガネ越しの視線が痛い。面倒くさいなぁ。
わかったよ、そういうのは嫌いじゃない。むしろ好物だ。
長らく放ったらかしにしてた大して意味のない、思いのないプロフの風景写真。
今変えるのに人は意味を感じる。そう、詩音が言うように戦いの狼煙を上げる時だ。押し出す時なんだ。
「詩音、設定して。微調整したいだろ」
「したいけど、入れない。本人じゃないし」
オレは詩音のタブレットを取りパスワード、IDになっているメアドを入れた。
これで詩音はオレのグチッターに何時でも入れる。
「信用してくれるのね」
オレのためだけに何十時間も費やして仕上げた絵を惜しげもなく提供してくれるヤツを信用しないでオレは一体誰を信用するんだ。
使われるかもわからない物に思いを乗せるのは根性がいる。それは物書きをしてるオレにはわかる。
きのう読んでくれた人、今日読んてくれるかなぁ。
今日来てないよなぁ、きのうの何かだめだったのかなぁ。あっ、来てくれたんだ。考えすぎだった。
そんな感覚。
詩音場合は顔が見える特定の相手、オレには対してなんだ。
オレの投稿とは違う緊張感があるに決まってる。それを乗り越えて来たんだ、オレのとこまで。
信用するかって、笑わせるな!信用するに決まっている!まぁ、一度ふられましたけど?
そんな自虐ネタも挟みつつ待つ。駅のロータリから少し離れた民家の壁を背にして。
「あれっ、待っててくれたんだ。ありがと―」
オレたちは不意に声を掛けられる。詩音は一瞬視線だけを上げるがすぐにタブレットの画面に集中する。
オレも詩音の集中を切りたくないのと、わざわざ『おまえを待ってたんじゃないし―』などという『ツンデレ風味』な発言、取り方によってはかなり感じの悪いセリフを元より機嫌の悪い京子に掛ける必要もない。
京子がみょうに爽やかな顔してる。それが何かの答えのように思えた。
そうか、京順は旅立ったんだ。さらば友よ。君のことは忘れない。
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