第56話 正三角関係。

「どう、かな?」


「どうもこうもない、こんな完成度が高いイラスト見たことない、それだけじゃないイメージがちゃんと話に寄り添って迫力あって、しかも儚い!こんないろんなこといっぺんに語りかけてくるイラストは初めてだ、色々口走ってるけど、言葉にならない――最高の出来だ――だけど」


「―なんか問題」


の名前、プロフに載ってない、絶対に紹介する。ペンネーム考えてんだろ?」

「あっ、うん…」


「ペンネームは『キミノかたら』君の――だよ」


『キミノかたら』『冬ノ片隅カタスミ』微妙に似ている。寄せてきてるのか。『キミノ傍ら』君のだよって、オレの側ってこと――


 少しセンチメンタルになりかけたがそんなことはいい、オレは早速プロフに絵師情報を入力した。


 振り向くと詩音は京子の肩を借りて泣いた。静かに。


 ここまでが一区切りなんだ。詩音にとっては。


 ここが着地点でここだけを目指して突き進んできたんだ。達成するためにひとり孤独に戦ってきたんだ。


 詩音のたどり着く努力『死天してん』の妨害をやめさせるためにオレと別れる芝居を打ったこと、それをただひとりでやり抜こうとした思いに涙が溢れそうになった――


 オレが泣いてどうする。ゴシゴシと乱暴に目元を拭い泣いている詩音の頭を乱暴に撫ぜた。


 撫ぜるとき京子と合った視線はなんて言うのか、穏やかで包み込むような優しさがあった。


 それはオレに対してだけではなく詩音に対しても同じだ。


 この時だ。


 オレたちの『』がはじまったのは。距離も角度も何もかも対等な関係。


「亮くん、言いにくいんだけどさ」


「あれ、公人くん。なに?」


 そこにはオレのボクシング仲間の公人くんがいて、頭をボリボリ掻きながらとても言い難そうに、 


「―青春中悪いけど遅刻だよ、マジで――」


「あっ!」


 オレたちは校門目掛けてダッシュする羽目に。しかも中間テストだ。何やってんだか、でも悪くない。


 すごくいい気分だった。


「なんで私だけクラスが違うのかなぁ」


「進路だよ、私たち就職クラスだからね」


 そう、オレと京子、京順は就職クラスだった。


 京順は京子の顔色をうかがいながら詩音に『なんでオレ同じクラスなんだろ』と泣き言を漏らした。


 オレは先に席に付きペンケースやらの準備をしていると通り過ぎながら京子はオレの手の甲に『ぴっ』指先を当てて『へらっ』と笑いながら軽く手を上げて自席に着いた。


 こういう普通の女子がしそうないたずらする娘なんだ。変な感心をしてしまった。


 ナメてた訳じゃないが、いや行動としてはナメてると言われても言い訳のしょうがない。


 入学以降、特にこの10日程予定はメジロ押し。テスト勉強はかなり『控え目』だ。


 いや、表現が『控え目』過ぎた。まったくやってない!


 机に座れば京子とビデオトーク。土日はファミレス・ナッシュビルでのバイト。


 そして『死天してん』こと佐々木咲乃との対決。


 しかし本当に対決しないといけないのはテストでした。


 1年1学期の中間だ。それほど授業が進んでるわけでもない。実力部分が物をいうと信じたい。


 オレはテスト期間、付け焼き刃を『付けまくって』何とか最終日を終えた。


 駄目なら期末で取り戻すしかない。そうしょう。後悔しても済んでしまった。


 何にしてもテスト最終日は最高だ。学校は昼間でだし。事件なんて――


 あれ?京順けいじゅんスマホ片手に青い顔。


 どうしたんだ?


 テストは諦めろ。おまえテスト良かったことないじゃん。


「亮介、マズイ。咲乃が出待ちしてるって」


 なんだよ、昼から陽茉ひまちゃんとまったりファミレスでも行こうかと思ってたのに。







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