第164話 高をくくる。

 人はどんな時に怒るのだろう。そんなテーマに向き合うのは、なんちゃって主人公の亮介だった。そして流石にそこは小説を書く身、すぐに『怒らせる』手法を思いつく。人はそう、当たり前のわかりきった指摘をされると腹の立つものだ。今回の場合の鉄板的にこの方向性で行こうと亮介は決めた。


「なに怒ってんの」

「怒ってない」怒ってる! いや、怒らしてるんだから怒ってて当たり前なんだけど、狙いどうり怒って亮介は満足した。そしてやめときゃいいのにポンコツ主人公亮介は更に調子こいてしまった。


「なに拗ねてんだよ」亮介はもちろん『拗ねてないし!』を期待して待ったのだがテンプレどうりには行かない。

「私が拗ねたらダメなの」急に咲乃は『しおらしモード』にカットイン。しかも狙いではなく、普通の感情表現としてしおらしくなった。急激に乙女になった。普通ここは『恋なんじゃね?』になりそうなものだが、亮介はまだ咲乃のしおらしさに気づけてなかった。乙女とはなんたるものか、知りもしない。しかもここにきて『ノーストップガール咲乃』突然のアクセルベタ踏み。


「ねぇ、亮ちゃん。私が拗ねたらダメなの? 私が悲しくなったらおかしいの?」ようやく亮介は咲乃の異変に気付くも(ちょっと何言ってるかわからない)状態だった。ヒントでも転がっててくれたら何とかなるのに。亮介はそう思うも、ホントだろうか? そして間の悪いことに『ヒント』ぽいものが咲乃から偶然提示された。しかも咲乃にはまるで意図がない。思いつきで、ヤケになってそこらのおもちゃを投げる子供と大して変わらない感覚で『ヒントみたいなもの』を亮介に投げつけた。


「ねぇ、亮ちゃん。京子の家で何したの? 京子の部屋で何してきたの? 言えないことなの? 私にはなの?」言われた亮介は考えた。京子にしたこと、咲乃には出来ないのかと聞かれても、逆に聞きたい(えっ!? きのうのアレしていいの?)と。


 そして京子のきのうの言葉『真面目過ぎるから小説でもが発展しないだよ』そう言って笑った顔。


 何より亮介にとって咲乃は嫌いじゃない。顔立ちも性格も。京子の『リョウは真面目過ぎる』という言葉と咲乃の『私には出来ないの』その言葉が背中を押しているように感じてしまった(オレは真面目過ぎるからハーレムモードにならない。ハーレムモードになるには……)亮介は目の前に、手を伸ばせば届く範囲にいる咲乃に、咲乃の整った顔に、頬に手を伸ばした。伸ばした手のひら、指先は咲乃の形のいい耳に触れた。


 亮介の鼻はもう数センチで咲乃の鼻に触れるところまで迫っていて、咲乃の呼吸の乱れを感じ取っていた「同じことしてほしいの?」亮介の言葉に咲乃は目を伏せてほんの僅かに頷いた。

(どうせ出来ないんでしょう)咲乃は高をくくる。




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