第163話 鷲掴み。

 転校してきて側にいつもいるようになった咲乃だった。もともと同じ中学卒なので家も自転車の行動範囲。毎日咲乃が駅に近い亮介をお出迎えして登校していたのだが、最近置いてけぼりを食らっていた。京子が早めの時間に誘いに来ていたからだ。


 咲乃が迎えに来ていたと言ったが何故か咲乃は毎朝『偶然』を装う。なので、ここ最近亮介が京子と登校するのも別に亮介が咲乃を置いて行った、とはならない。


 そして『振り返らない系女子咲乃』が人生においてほとんどしたことがない『振り返って反省する』という『奇行』に出ていた。内容はこうだった(やっぱりいきなり『監禁』はしない。ここは私が大人になって『軟禁』から亮ちゃんに手解きしょう)そう反省したのだが『軟禁』なら一般ウケするというのはどうなのか。


「どうした」ありきたりな質問を咲乃に投げかける。投げ掛けながらもついつい目はチラ見してしまう。どうにも咲乃は好みのタイプだった。

「どうしたはこっちのセリフ」やけにつっけんどんな対応なのだが、残念ながら亮介は咲乃に少々のことをされてもまったく『カチン』とも来ない。来ないどころかご機嫌を取りたくなるのだから不思議だ。


「京子の家に泊まった」すんなり答える。誤解がないよう付け加えると亮介の鈍感スキルが発動したわけではない。まして正直に吐いたわけでもない。咲乃のリアクションが見たい、そんな妙な期待からだった。拗ねるのか、怒るのか、はたまたスルーされるのか、どんな反応でも亮介的には『イッツオールライト』だった。


「そう」珍しく咲乃が拗ねた。これはレアな反応だ『色違い』もしくは『メタル系』と言って差し支えない出現率だ。こういう『女子』な反応する咲乃は本当にないのだ。グイグイ来たり、大胆だったりでの女子運用はそこそこあるのだが。その時、亮介はその先を知りたくなった。


 正座した足を少し崩して『女子座り』しながらそっぽ向いてしまった。その仕草が亮介には堪らない。亮介は更に別方向から咲乃が拗そうな話題をチョイスした。


「そういやお前バイトは」日曜の昼だ。本来なら『ナッシュビル』でバイトしているはずの時間帯だった。この話題がなんで咲乃が拗ねるかというと亮介が遠まわしに『望』のことで探りを入れていると受け取るからだ。ちなみにナッシュビルの店長の望と亮介は『保留カップル』だった。関係がはっきりしない。


「知らない」咲乃はほっぺたを膨らませる勢いで拗ねる続けた『ツンデレ』ならぬ『ツンツン』属性なのだが出現率が低過ぎて亮介のハートは最早鷲掴み状態に陥った。いっそこの状態から『キレられたい』とも思った。ほぼほぼ『バカップル』と言うに相応しい。


 そして(いや、ここはがんばってキレさせよう)そんな計画が密かに持ち上がった。








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