第75話 対岸の火事。
「黙ってる選択肢か―」
オレは理想的なオオム返しをした。実際のところ男女間は『黙ってる選択肢』が多いと思う。
何でもかんでも共有してたら人間関係ズタボロだ。
ズタボロなんだけど、それは一般論で、オレ的には『たぶん』そうじゃないかな?という想像の範囲で実のところはまったくわからん。
きっと詩音もこの範囲を出てないだろう。
「仮にの話だけど―」
オレは自分の中の堂々巡りに目が回って『現時点』の考えを口にする。
「仮に隠さずに正直に打ち明けるとして―何でも言えば許されるとでも?になるよな」
「間違いなくなる。私ならそう言う。ズルいけど『黙ってて欲しかった』って言う、黙ってたら『何で言ってくんないの』ってキレるし―亮くん的には積んでるわね」
残念ね、そんな他人事な口調だ。そして更に付け加える。
「亮くん、ここ間違えると今度は私が大変よ?京子に平謝りしたら『私とキスしたのそんなにいけないことなの?後悔してんだ、へ―っ』になるよ?」
なんだよ、その背中から矢を射かけるスタイルは。相談からの恫喝ってなんか新しい、斬新だ。
「リアル『二兎追うものは一兎も得ず』だね、ガンバ」
自分はいち抜けた感マシマシだな。『詩音!ホントにキスするなんて信じらんない!』にはならないのか?それはそれであると思うが言わない。課題を膨らませても仕方ない。
「京子に怒られ、私に呆れられ―亮くんボッチだね」
なんか楽しそう。なにこの他人事感。つまりオレの置かれてる状況は『黙っとく』か『謝るけど、適度に』というなかなかの消極戦法になる。
唸り声を漏らしたくなる状況を切り裂く悲鳴。詩音だ。
「亮くん、ヤバいよ!これって『
「なにそれ?」
「簡単にいうなら『漁夫の利』よ。私と京子を亮くんと揉めさせて、遠ざけてひとりボッチになった亮くんに手を差し伸べて『亮ちゃんには私がいるよ?安心して』みたいな!ヤバいよ、君!孤独に弱いから『コロッと』騙される予感しかしない」
なんだ突然の誹謗中傷は。そもそも佐々木咲乃がオレたちがキスすることを想定してるか?
してたとしてそんなことリアルタイムでわからんだろ。詩音は佐々木咲乃が絡むと過剰反応してちょいちょいポンコツだ。
「ヤバイは危うく『対岸の火事』決め込むとこだったわ、よくぞ気付いた、私!」
対岸の火事決め込むとこだったんだ。いや、そんな気してたけどさ。言葉にされると猫パンチしたくなるな。
「何にしても亮くん、京子にはまだ言わないでおこうよ、今日明日ちょっと考えたい」
それはそうだなぁ。慌てて謝罪することでもないし、そもそも謝ることなのかもわからない。それと同じで黙ってていい事かもわからないから悩む訳だけど。
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