第74話 後悔はしてない。
「京子とは話ついてるから―」
詩音はオレを見送りながらそう言うが、不安顔。オレは詩音の部屋でキスをした。
詩音と京子の間では「同じところ」までは「譲歩」する約束だ。
そんな約束はあるものの、どの程度京子がマジで受け止めてるかは別の話。
詩音に振られて京子に出会った。出会いは突然にだった。詩音に捨てられたことを知らないヤツは校内にいないだろう。
それでもオレと普通に接してくれた。始まりは別に付き合うことを前提とはしないものだった。そこから仲が進展した。
校舎の屋上でオレはキスをした、京子と。
今日詩音とキスしたことを後悔してるわけじゃない。詩音が自分の感情を抑えてオレと別れる芝居をし、佐々木の妨害を終わらせようとしてくれたこと感謝している。
ただ、身勝手を1つ言うなら『言いえよ』だ。抱え込んで行動した結果、お前もオレも傷付いたじゃないか。
そのことと、今回のキスは関係ないけどね。
「平気だよ」
そう言うのは平気じゃない証拠。後悔じゃなくて、京子に対してもどうするか決めないと。
自宅に帰り着いたら電話ほしいんだ、そう言われていたから、いや言われなくても電話してたけど。
「仮にホントのことを京子に言うとする―」
うん、気にしてない割にこの短時間でシュミレーションしてるじゃないか。気にしないわけないけど。
「女子的には『何でも正直に言えば許されると思うんだ』になるよ、女子的じゃない。京子的にはだわ」
「それはそうだな。目に浮かぶよ」
きっと、関西弁でなじられる。いや、それは楽観視し過ぎだ。自分に都合いい解釈だ。『同じトコまで』つまりキスまでいいと言ったけど実際されると。京子はすると思ってないかもだ。
何よりだこの約束は女子同士のであって、女子の変わらなぬ友情は健在でもオレに対しては『サイテ―、さよなら』がないわけではない。積んでるのはオレだけだ。
「ビデオトークにしていいかな」
詩音は言う。ビデオトークじゃなかったんだ。今更気付く。
映し出された詩音は何時もの中間だ。髪をおろしてる時はメガネをしない。髪を束ねている時はメガネをしてた。今は髪をおろしてメガネをしてる。
髪はオレがほどいたんだ。そう思うと『ドク』っと心臓がざわめいた。照れる表情の詩音は大人っぽくて、オレは慌てた。
「黙ってるってのは選択肢にあるのかなぁ」
詩音は呟く。オレに聞くというより自問している。その言葉の感じには『後悔してもなあ、仕方ないよね』が程よく含まれていた。
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