第70話 納得の仕上がり。

 オレたちは玄関先、つまりは外でノ―トパソコンを開いて盛り上がってる感じだ。


 それはよく見かける小学生が携帯ゲームを持ち寄って盛り上がるのと大差ない。


 これはこれで楽しい。季節もいいしちょっとした庭木のニオイもする。


「これでどうかな、いいと思うんだけど」


 差し出された画面を見る。最初見せられたイラストより格段にいい。主張して来る感が凄い。


「はじめからよかったけど、何か主張してよさが増したな、完璧だろ、これ」


「へへへっ、完璧頂きました」


 今日の詩音は泣き笑いだな。いい笑顔だ、いつもの控えな笑顔とはまるで違う。


 大好きなことを認められるってことはそれ程嬉しいのだ。


「あっ、両親帰ってきたよ。どうする」


「どうするって、挨拶するよ。逃げたら変だろ」

「まぁ、そうなんだけどさ。ふたりして両家にあいさつな日だね」


「まったくだ」


 オレは立ち上がり地べたに座ってたのでお尻のホコリを、軽く払ってあいさつの準備をした。


 あいさつするとは言ったが緊張しないとは言ってない。やっぱり緊張する。しかも女子の両親だ。


「あれ、あなたは―亮くん?」


 買い物袋を手に持った女性は少し首を傾げながらそう言った。


 そう言えば見覚えのある人だ。詩音の送迎で、お絵描き教室の時何度か顔を合わしていたんだ。


「あ、ご無沙汰してます」


「亮くんおぼえてるの、お母さんのこと?」

「会ったら思い出したよ」

「そうなんだ」


 詩音は意外そうな顔をする。確かに別の機会に会っていたらわからなかっただろうが、詩音の家で詩音のお母さん前提なのだ。記憶も蘇りやすい。


「その格好で出てるのか」


 お母さんの後ろからお父さんが現れた、詩音のジャージのことを言っている。オレは名前と学校が同じで、などと簡単に自己紹介した。



「だって、亮くんが誰もいない家に上がれないって―ぶぅ」


 あれ、拗ねた、拗ねるんだ。詩音って泣き虫だけどクールじゃ?末っ子の甘えん坊?


「お絵描き教室って、小学の時に行ってたあれか?その時の友達か。遠慮せずに上がればよかったのに」


「そう言ったけど、意外と頑固者で聞かない」


 そう言われてもな、男子的には気を使うわけですよ。あいさつもせずに上がり込むのは。ご理解ください。


「まぁ、何にしても上がって。年頃の娘がそのジャージじゃあなぁ」


 お父さんはぽりぽりしてるけど、詩音はたいして聞いていない。さっき配色を変えたイラストを保存していた。


「亮くん、気が済んだ?部屋行こう。見てほしいものあるの、いっぱい」


 オレは引きずられながら2階の詩音の部屋に連れて行かれた。


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