第79話 泣き言は2度言う。

「私ダメね、自分からケンカ売っときながら売った相手に慰めて貰おうとか―」


 うん、確かにオレもそれはダメだと思うよ。アレだけのこと言ったんだ、今やり返されても文句は言えんぞ。


 やり返さないのはオレの人柄だ、有り難く思え。


 まぁ、ヘタレだから言い返せない説も根強いけどな。


 それはさて置き中途半端に見せた優しさはやっぱり中途半端だ。


 次の言葉が見当たらない。見当たらないけど、駐輪場に向かう足を止める。


 仕方ないので佐々木の隣に座った。佐々木は意外に『にんわり』と笑った。


 なんでずっ―とこの笑顔じゃなかったんだ。これは強く抗議する。


「ごめんね、自分で仕掛けてるくせして最近さ。疲れてきて―亮ちゃんさ、こんだけ抗争状態じゃない。なんで普通なの?」


 佐々木の言う『抗争状態』って言うのは佐々木こと『死天してん』とオレ『冬ノ片隅カタスミ』を取り巻く環境だ。


 簡単に言うと互いの『オシ』同士が誹謗中傷を繰り広げている。


 前にも言ったがオレは元より『中の人』に徹してきたので、今更発言をしなくても特におかしくはない。


 しかし、しばしば『オシ』をあおってきた『死天してん』が『オシ』の発言を無視できない。


 相槌なり、コメントを発する。コメントはコメントを生み、今その返しに注力しないといけない。


 新作を準備する環境としては最悪だ。心穏やかに取り組める状況など『これっぽっち』もないのだ。


 集中しないといけないのに出来ない、心穏やかにしたいのに、攻撃的な内容は心ざわめくものだ。それでもすべては自業自得。


 自作自演、とまでは行かないまでも『劇場型』なのだ。


 注目をさせ『オシ』を増殖しPVに反映させ、更に人気を高める。


 時代に乗ったスタイルではあるが、根底に『書く』力がないと出来ない。


 佐々木には『量』『質』伴っている。


『量』『質』そして『勢い』どれをとってもオレと佐々木では勝負にならない『ティア』が違うのだ、階級というか戦っている階層が違うのだ。


 これは泣き言ではなく、冷静な分析だ。力量が違い過ぎる。


 そもそも佐々木がオレに張り合ってこなかったら、誰も比較しないふたりの書き手だった。


 その佐々木が疲れている、加熱したネット対応と、パクリなしの新作に。パクリは京子の『キレ』から今回は封印されることになる。


 先に新作を出すのでパクリようがないのだ。


 もしかしたら、いつも参考にしているオレの新作がないのが、プレッシャーになっているのか?


 隣に座ったオレに言ってるのかわからんが『私はダメだ』と2回呟いた。


 オレは頷くでも否定するでもなく、残ったポカリをチビチビと飲んだ。







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