第5話 考えてなかった。
『長くなるかもだから、あがったら。風呂のぼせるよ』
はっ!
断っておくと、これはオレの声ではない『誰かが』オレのセリフを完コピしてるんだ!
そんなことするヤツは…
「クミねぇ!」
アイスを口元にくわえ「にゃは」みたいなネコ科的好奇心でオレを見る。
「クミねぇ」と言ったが実際は実の姉ではなく「親戚」のねぇちゃん『クミねぇ』だ。
「カノジョ風呂入れながら電話させるなんて、大胆ね」
「電話は向こうから掛けてきたんだよ」
「えっ、それも大胆ね『ねぇ、亮介くん、私こんなとこここんなに開いてんのよ』みたいな?」
ひゃっひゃっひゃ!
思う存分引き笑いしてやがる。覚えてろよ!
『がっ!!』
「おうち!」
鈍器で殴る音が…振り返ると。
「
実の姉登場と共に「クミねぇ」の後頭部を「グー」でダイレクトアタック。
親指を「びしっ」と立てて「クミねぇ」の首根っこ掴んで無言で去っていく。
相変わらず
たぶんだが、女子は風呂上がりに掛かる時間は長い。「陽茉ちゃん」も「クミねぇ」も長い。
髪乾かしたりに時間掛かるんだろ。
オレはスマホを手に取りSNSで北町にメッセージを送った。
『オレもさっさとフロ入るわ。上がったらこっちから連絡する』
送信。
オレは風呂に入りながら次の流れを思い浮かべていた。
あっ、小説のね。オレの時間はすべて小説を中心に回っていた。
風呂にいても、学校に行くときでも。いつの頃からか自然にそうなっていた。
10分掛かったかなぁ。マッハで風呂を終わらせドライヤーもほどほどに自室に戻り北町に連絡。
「びっくりだよ、男子ってこんなにお風呂早いもんなんだ」
間延びしたした声が気のせいなんだけど、甘えてるように聞こえる。
「冬坂くん、ビデオトークしたことある?」
「ビデオトーク?いや、ないけど」
「わたしもないよ、ネット環境あるならやってみようよ」
ビデオトークって動画というか、テレビ電話みたいなもんだよな。
部屋そんなに散らかってないけど、ちょっと整えた。
スマホの画面には北町の高揚した顔に風呂上がりに頭に巻いたタオル。
そしてぎこちない笑顔、ギンガムチェックのパジャマ。
これがあの地味系女子?オレは呼吸を忘れそうになる。
「こんばんわ」
なんて、破壊力なんだ。
「なんか、恥ずかしいね?」
恥ずかしいね、なんてもんじゃない。
緊張する。何これ「バーナム効果?」それとも「吊り橋効果?」「費用対効果?」でないか。
「どこまで話したっけ?文字数だよね」首を傾けてニコリ。
深呼吸―ビデオトークだから丸見えだよな、やめとこ。
そう、文字数の話だ。
「いきなりだけど、北町の話平均5000文字なんだけど、ちょっと多いかなぁって印象。カキコムでは」
「5000文字は多いのか。そうなんだ。冬坂くんのは何文字くらいなのかなぁ、1話」
「オレ連載してるの2500文字と1500文字の2本かなぁ」
「ん―冬坂くん。私はネットで『読み専さん』は長ければ長い方がイイって見たんだよ」
「それはそうなんだけど。全員が『読み専』じゃないし、通勤通学の合間に『サクッ』と読みたい人多いのかなぁ、と」
「サラリーマンの人とか休憩時間決まってるだろ」
「あっ、うん」
「お昼食べて、トイレ行って、コーヒー飲みながらゆっくりのんびり読みたい時に長かったら」
「休憩時間なくなるのか」
「うん、読む話の途中になると忘れない?内容。そうなると読まれないよ、たぶん。それにさゲームとかログインしないとだから小説ばっかに時間取れないよ」
「そっか、そうなんだぁ」
「いや、たぶんだから。直接聞いた訳でじゃないし」
「うんうん、違うの。読んでくれる人のこと考えてなかった。反省じゃなくて発見したの」
なんだろ、この感じ。なんかほわほわして、すごく気持ちいい。
「ありがと、冬坂くん」
北町。お礼言いたいのオレだから。オレは新たな出合いに感謝した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます