第63話 街の雑踏。

「どうだった」


 遠目から見つけていたから驚きはしなかったが、意外だった。


「なに、待っててくれたの。終わるの」


「そうよ。言ったでしょ私はだって。それにが働いてくれてるのに」


「別に家計支えてるわけじゃないって、ひとり?」


「京子がいないとご不満かな。早めにご機嫌取らないと大変よ?ふふっ」


 普段着の詩音を見るのはあまりない。最近の学校でのイメージは『ガチオタ』だが、詩音がするとコスな感じでカワイイ。


「なに。へん?」


「変じゃない。どこの誰が女子の私服見て変だなんて言うんだ。そんな時はスカート履き忘れてる時だけ」


「それヘンじゃなくて、ヘンタイよ。で、どうかなぁ?」


「どうもこうもなぇよ。かわいい」

「あら、意外。『なに、バカなこと言ってんだ、かわいいわけねぇだろ』みたいなのないのね」


「そっち系のテンプレ、リアルでやると変人だと思う。いないけど妹相手が限界じゃね?」


「まぁねぇ。かわいいと思われたくて選んだ服けなされたら傷つくよ。亮くんって『こっち系』のが好みなの?」


 こっち系とは所謂いわゆるお嬢様系。ひらひらとした感じだ。今日の詩音は紺色のワンピなので、お嬢様というよりお姉さん系。清楚な感じだ。


 つまり出会った頃、いや再会した頃の『亮介さま』と呼んで学園のアイドルだった頃のことだ。


「どっちもって答えは求めてないんだよな。今日のはかわいいと思うけど、普段の方が『好き』かな」


「どの辺が?」


「今日のは全方向性にかわいいよ。誰が見たってさ。でもいつものはオレしか知らないかわいさがあるから―」


 詩音は黙り込んで立ち止まりほっぺたをぺたりと両手で押さえて照れた。そして、ちょっと睨みを効かせて


「くどいてんの?もう落ちてるっうの、バカぁ。ぷいっ」


 うん、かわいい。家に持って帰りたい。ん、家に?


「詩音歩きで来たの?」


「送ってもらった。お兄ちゃん、結婚して家出てるけど朝来てたから」

「そうか、どこ行く?乗れよ後ろ」

「今ダメなんだよ2ケツ」

「二人乗りな?違うよ押すから乗れって。その靴、足痛めそうだし」


 オレは詩音の少しだけヒールの付いた靴を指差した。躊躇したものの詩音はチャリンコの後ろの荷台に横座りで乗った。


「あの、こういうのするの―」


「こういうの?しないよ」

「そう、誰とって聞いてないけど?」

「京ちゃんだろ、なれてるよ。京ちゃんと話してる時も『主語』なしは詩音のことだし」

「そうなんだ、私の話出るんだ」

「悪口以外な」


「じゃあさ、こうやって後ろ乗せて私がはじめてなの?」


「昔京順が足骨折した時にしたことある」


「京順ちょくちょく邪魔だな。違う、それ人命救助ね?こういう男女な感じよ」


「はじめてだな」


「ふ―ん。まさに1番ね?」

「ダジャレかよ」

「そうよ、ダジャレ。ありがたく思ってよね、滅多に言わないんだから。もうひとつ『1番乗り』させてよ」


 信号で止まった。信号待ちの時ってなんでこんなに街の雑踏が聞こえるんだろ。


陽茉ひまちゃん、紹介してよ」
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る