第91話 キュン死確定。

 意外にも詩音も『無限自責ルート』にだだハマり中だった。第一声が―


『私なんかのために、ゴメンね』


 むしろオレより重症者。


 思えばオレはみやびとはしゃぎ、望ちゃんとデートをこぎ着けた『ハッピー野郎』なんだ。


 この際細かいこと考えずに『リア充』にゴー!すれば、楽しい高校生活ではないか。


 そんな考えに出来れば悩みはない。


「そんなことはないよ」


 何はともあれこれは伝えないと。


 詩音のせいで今のオレの状況が悪化してるんじゃないし、むしろこの辺で留まれてるのは『詩音』の存在をおいてない。


「そう言ってくれると―」


 詩音は控えめに安堵の声を漏らした。電話しといてよかった。


 もし連絡取ってなかったら、きっと詩音はオレが『怒ってる』と受け取っていたろう。


 ささやかだがこれはオレのホームラン、今日の。


 ホントささやかだけど、この行動は詩音安心させた。


 それだけで1日の苦労が、報われない気持ちが大幅減。


 単純なものだ。


「あのね、亮くん―」


「この間『亮介』にしてなかった、呼び方?」


「あわわ、バレた。キスした勢いで調子こきました」


「別にいいのに」


 一瞬の沈黙。その沈黙を破ったのは『ビデオトークのお誘い』詩音からだ。


 オレは通話を切ってビデオトークに移る。


「じゃ、じゃ、じゃ、お言葉に甘えて亮介で固定していいかな、調子こいてないかな」


 さっきまでの沈んだ口調は姿を消した。代わりに出たのは高揚した表情。


 この方がいい。


「どうでもいいけど『じゃ、じゃ、じゃ』って『じゃ』多すぎだ。オレとお前の仲だろ」


「亮介、どうしょ『天に召されそう』キュン死確定」


 バタンと倒れておどける。こういうのでいいんだ、楽しくやろう。


 キュン死してるんならトドメを刺すか。


「詩音はかわいいな」


「―なんか『死亡フラグ』バンバンなんですけど、こんな日があってもいいよね、私」


 何か自分に言い聞かせた。


 軽く何度か深呼吸して画面に向きなおる詩音。


 冷静に見て端正な顔立ちだ。今はメガネをしてる。オレはメガネをしてる詩音の顔好きなんだ。


「贅沢。ホントに贅沢だよ。贅沢なんだけど、私バカなんでこの贅沢な時間壊そうとしてる。せっかく亮介がくれた贅沢な時間で、もう本音はどっぷり浸かってたいんだよね、この贅沢。そんなしょっちゅうないのに」


「大丈夫。しょっちゅう用意するよ」


「うん、期待してます。あぁ、もったいない―」


 両手を組んで前に伸びをして、呼吸を整える。


 詩音はまるでストレッチをして競技に挑む短距離選手のようだ。


 そしてコースに着くように、決心を固め、口を開いた。


 メガネ越しの視線キリッとして詩音の本気を表している。


「京子って、贅沢病よね―」


 詩音は今まで封印していた京子批判を口にする。


 それは自分のためにではない。きっとオレを、オレの気持ちをかばうために敢えて『親友』と呼ぶ京子を批判しょうとしている。


 それは気の重たい行為だろうけど、その苦言は本人である京子には届かないだろう。


 届かないからオレに言う。


『気にしないでね』


 そんな言葉を伝えるために。

















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