第40話 思わぬ展開。

「大体こんなとこ」


 一気にまくし立てるように話し終えた佐々木咲乃はひと息着く。


 お前はひと息着けるかも知れないが聞かされた方は溜まったもんじゃない。


 結論から言うとコクられた。しかも、正確には中3になる前に。


 なんで今の今まで知らないかというと『京順けいじゅん』経由の告白だった。


 聞けは佐々木と京順はいとこらしく、オレと仲のいい京順を通したらしい。


 じゃあなんで京順はそのことをオレに言わなかったか、それはいとこ特有のいとこしか知り得ない情報、例えば半端なく気が強いとか、恐ろしく外面がいいとか。


 きっと、京順的にはオレに一族の『キワモノ』を紹介したくなかった、親友に押し付けたくなかったのではないのか。


 そんな気がする。


 ただ、意外にも一族のキワモノでも他人からすると魅力があったりするので一概によかったとは言えない。


 そので佐々木咲乃が持ち出したのが『時系列』


 そう時系列的には自分が最初に告った訳だからカノジョもちの男子に言い寄ってる訳ではない、アレもコレも薬師寺京順が悪いとなる。


 実はもう少し細かな時系列もあり、高校入学初っ端に『柚原詩音』と付き合ったのを耳にしたとき『半殺し』に仕掛けたらしい、あの京順を。


 このレイヤーボブのお嬢さんが。


 京順からすれば自分を『半殺し』するような『いとこ』紹介出来る訳もなく、放置した。


 そうする内に『柚原』と破局、この機に絶対オレに話しろと言い聞かせたものの敢え無く北町京子と付き合うことに。


 怒り心頭な佐々木は最終手段『おばあちゃん』に言い付けてやる!を発動、おばあちゃん子の京順はやむなく、こうなった、と。


 マズイ。現状かなりマズイ。何がと言うと『この一連のバイト』問題、京順は不本意ながら京子に嘘を付いている。


 しかも京子にしてみれば自分のカレシであるオレに陰で女子を紹介してるのだ。普通に考えて絶交待ったなし。


 親友とカノジョがもしそんなことになろうものなら、かなり気まずい。なんか気まずい。


 場合によってはオレと京子の付き合いにも影響しかねない。


 隠さないと駄目なヤツだ。こんなのいくら京子が仏だったとしてもきっちり成仏させられる。


 京子は普段おっとりだが、全部が全部おっとりじゃない。


 わかんないけど、京順か私選んで! とかいう性格じゃないとは言い切れない。



 不意に笑い声が聞こえた。佐々木以外ではないのはわかるのだが、いつもと声のトーンが違う。

 なんて言うか、低いハスキーな声だ。


「何がおかしいんだよ、どうすんだよ京順まで嘘つかせて」


 オレはあたふたとしていた。取り敢えず明日京子になんて言うべきか混乱していた。


「亮ちゃん。小さな嘘を隠すのは大きな嘘で包んだらいいんだよ。、でしょ?」


 咲乃は口元を手で隠しながら楽しげに、そして嘲るような目でオレを見た。今までの佐々木と違う佐々木がいた。


「佐々木―――どうした? 何かへんだぞ」


 オレは佐々木咲乃の変化に息を飲んだ。ちょっと変ではない。まるで憑き物が付いた、そんな感じの変化だ。


「それとも『』さんにはむずかしかったのかなぁ」


 その声色と表情、言葉の内容すべてがオレを混乱させた。


 冬ノ片隅カタスミそれはオレが小説を書くときに使うペンネーム。


 リアルで知っているのは京子と陽茉ひまちゃんくらいか?


 少なくとも佐々木咲乃は知らないはず…


 それをなんで佐々木が知ってるのか、何で突然凄むような視線を投げつけるのか。


 何が動き出そうとしていた。

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