第140話 マブダチの悲鳴。

 沈黙は突然破られるモノだ―


 この体育の授業もそんな感じに『沈黙』が終了した。


「やめて!」


 男子は『魔』の1500m走を数組に分かれて実施中――女子は走り幅跳びをしていた。


 亮介はちょうど――走っているところ――そこに悲鳴に近い声が―


(京子―か)


 亮介は辺りを見渡す―見渡した先に―京子の姿。その手を掴まれている――


 後藤に。


 後藤は前の前の組で1500mを走り終えていて、どういうわけか、京子の腕を掴むにいたっていた。


『おい!冬坂とうさか!』


 教師の制止する声を背に亮介はコースを離れる―躊躇はない。あるのは心臓の高鳴りと、異常に流れ込む頭への血流。


『ああ、中々のタイムだったんだよ


『ホントな、オレ史上なのによ、どしてくれんの、


 亮介の頭に登った血を――見越してか、亮介の後を2つの足音が追う―悪友の京順けいじゅんとボクシング仲間の公人きみとだった。


「たのんでないぞ」


「そう?心の叫び聞こえたよ、僕には―君の」と公人。


「オレは京子マブダチの悲鳴がしたんで―」と京順。


 目的はどうであれ――京子の危機に駆けつけようとする者が3人もいる。


 亮介の視界に――もうひとり。


 なんだ、いるじゃね―かよ。マジモンが――3人の到着を待たずに後藤の背後からそっと近づき――無遠慮に『蹴り』を入れる影――


 咲乃だ。


 咲乃の蹴りは容赦なく、背後からということもあり―


 後藤は呆気なくふっ飛ばされた。


 地べたに転がる後藤を見る目は――超蔑んでいた。


 咲乃、今日も『平常運転』だ。


 拘束から逃れた京子は亮介達の背に逃れる――逃れた京子に声を掛ける――


 女子の声がした。


『北町さん、困ってる?』


「困ってる」

『わかった』


 その女子は素早く行動に移る。先ずは女子を担当していた体育教師に、そして異変嗅ぎつけて駆けてきた――


 亮介たちの体育教師に現状の説明をし、改善を求めた。



「痛むか」


 手首を押える京子に亮介が声を掛ける――


 京子の口元は細かく震え返事が出来ない。


「京子―北町を保健室に連れていきます、手首を痛めている」


「わかった」


 体育教師に告げる――正直それどころではない。男性教師は後藤の腕を取り――


 生徒指導室に連行―程なくして『応援』の教師がバラバラと現れた。


 体育の授業中に理由はどうあれ――後藤は京子に暴力を振るった。


 現に京子の手首はうっ血して紫に変色していた。深紫に変色している。


 保健室に行くと『保健室の先生』――


 女性の養護教諭は京子の手首を見てすぐに『病院』に行く判断をした。


 保健の先生は京子に早退の手続きをさせ――その時、その先生はふとたずねた―


「ふたりは、友達?」


 亮介は『彼女です』と答えた。


 先生は京子に『家族』が家にいるのかたずねた―首を振る京子を見て―


『君、どうする』


「早退します」


 亮介は即答しふたり分のカバンを持ち病院に同行した。


 早退の手続きをしに職員室に入ると――慌ただしく教師が行き来していた。


 学校内で片付く問題ではなくなるかも――


 亮介は何となくそう思った。














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