第28話 ゲス・プレイバック。

 次の日バイトに出掛けようと玄関を出ると、

「ちゃわっす!」


 玄関先に佐々木咲乃がチャリンコで待ってた。確かに中学校が同じなんで地理的には近いだろうが。


 昨日のこともある。詩音しおんのストーカー。なんか警戒するも――


「前に薬師寺に聞いたんだよ」


 なるほど、京順けいじゅんなら知っててあたりまえ。オレは詩音のことで神経質になってるかもだ。


「佐々木今日も迷惑かけるけど――」

「任せなさい!どん――んと来いよ!!」


 無駄話をしながら朝の街をチャリンコで走り抜ける。頬に触れる風が何とも言えず心地良い。


 その心地よさをかき消す小さな悲鳴が佐々木の口から漏れた。


 場所はちょうどバイト先のファミレス『ナッシュビル』の駐車場が見えるところ―――


「何アレ?」

「わかんない、行こう」


 駐車場のはずがおびただしいチャリンコが溢れかえり、わざわざ口にしなくてもいいくらい『嫌な予感』がした。


 バックヤードから入るとナッシュビルの女性店長がヤレヤレみたいな顔して出迎えた。


冬坂とうさかの客だぞ、毎度ありだな。全員ドリンクバーオンリーだ。ハハハッ」


「どういうことですか?」


 オレが聞く前に佐々木が聞く。声の感じから結果の見えた質問だ。


 つまり『柚原ゆずはら詩音しおん』の企みだ。嫌がらせだ。


「すみません、店長」


 謝るオレに『なんでだ?』みたいな顔する。いや、迷惑掛けてるから。


「気にするな、ウチは先月ドリンクバーオンリーの客はグラス、カップひとつずつしか、渡さん。だから洗い物『テロ』も起きん」


「何よりもドリンクバー単品設定は割高だから中々の客だぞ。しかも後から料理注文しても『セット価格』にならん。粘れば粘るほど腹減るからなんか注文するだろ。ちなみに何時ものモーニングより売上は上だ」


 そう言ってくれるものの。オレと佐々木の気分よくない。


 何か言わずにはいれない性格の佐々木、そして周りを巻き込まれることが大嫌いなオレ。


「いっちょ、やってやるか!」

「おうよ!」


 とはいえだ。バイト先だし、その辺は頭を使わないと。


 満席の店内は興味津々でオレたちの反応を楽しんでる。う――ん、ゲスはゲスを呼ぶんだな。


 変に納得した。感じの悪い煽るような笑い声やみょうなノリが店内を包む。


「気にするな冬坂とうさか行き過ぎれば通報する。本部からも言われてるんだよ、こういうの。威力業務妨害、ナッシュビルのガイドラインもさっき読んだよ」


 大人女子ってなんでこんなにカッコいいんだ。油断すると惚れてしまいそうだ。店長〜


「亮ちゃん?トイレ掃除なんだけど、にしない??」


 佐々木はとっても悪い顔して笑った。


「あっ、お前サイコーだな」


 ドリンクバー朝からガバ飲みしたら結果は簡単だ。


「冬坂、佐々木。ドリンクバー中、店外出るにはご会計な?」


 あっ、ここにも確信犯がいる、悪い大人がいる! 


 オレたちが1番ゲスい説。





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