第123話 別れの予感。

 4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。教師の『終わり』の言葉を待たずに、伸びをするものやさっさと机を片付ける者。


 そんな雑踏の中、授業は終わった。


 オレは京子に話がある、関係のこと。付き合ってる状態を。1度白紙に戻したい。


 そう考えて朝から機会を探っているのだが、察知してるのか逃げられている。


 避けられている。そして今も小走りで教室を出ていった。


 はっきりさせたい。オレは京子の後ろ姿を追う。小走りで走る方向は食堂へ向うものではない。 


 方向が違う。


 どこかはわからないけど、後を追う。ある時点、そう中庭まで小走りでやってきて息が上がった京子は立ち止まって両手を膝について、上半身を支える。


 どんだけ運動不足なんだ。息を整えながら振り向いてオレを見る。決心したのかいい顔をしていた。


「―マズイな」


 京子は明るめの声でおどける。


「きのうふたりにね、みやびとお母さんに『フルボッコ』にあったんだよ『あんた、またそんな釣った魚に』みたいなこと言われてさ。別にそんなつもりじゃないのにって。そしたら雅に『明日捨てられるよ』なんて予言されてさぁ、『昼休みに話あるんだ』なんて言われたら終了よ、ってお母さんまで」


「ごめんね、私ねよくわからないんだわ『大事にする』って。欲しいものとか大切なもの、手に入ると『袋』から出せないんだよね。机の中にしまっとくの。それ見たら『別に欲しくなかったんでしょ』とか言われるんだけどさぁ、私的には大事にしてるんだよ」


「でも、わかった。人に対して、カレシに対して『この』やり方はダメだよね。反省します、ごめんなさい―これじゃ、ダメかな?」


 別にダメとかじゃないんだよな。別に京子がダメじゃなくて、人としてどうとかじゃなくて、恋人―カレシ、カノジョとしては『今は』合わない気がする。


「オレは、たぶんすごく構われたいヤツなんだよなぁ。意識してなかったけど、最近気がついたんだ―気がついたら、やっぱり京子とは」


「合わない?今決めないとダメかな。ほら、かまうよ、お前ウザいんだよってくらいさ―そんなこと言ってるわけでもないか。」


 京子は自問自答した。オレが思ってることと、自分の中にあるもの、出せるものに乖離かいりがあることを知っている。


 別にそれでも構わないんだけど、人と人は違うものだから。


「今日、別れちゃう感じ―かな」


「別れるというか―白紙に戻したい、1度」


「ここは、どうだろ?あいだをとって、仲直りということで」


 全然『間』でもなんでもない。ぽんと、ヒラメいた的なリアクションでは騙せない。


 しかし、意外なのは思ってたより『グイグイ』くる。


 最近の京子のつれない態度からは想像してなかった。『わかった』の2つ返事かと思ってた。






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