第80話 予定のない集合。
「亮ちゃん、ありがと。平気だよ」
『
気になっても仕方ない相手だ。オレは額面通り受け取り帰ることにした。
「あんまりムリすんなよ」
オレは無理な注文を残してその場を後にした。佐々木とはバイトだけの仲だ、つまりは1週間先まで会うことはない。
今朝まで会うのが憂鬱だったクセしてなに気にしてるやら。情緒不安定な自分に呆れる。
これだって佐々木の演技、
そんなことは思うものの、変に期待持たせる訳にも行かないので帰った。
帰りながら気に掛かるのは佐々木ではなく、京子のこと。昨日の詩音との関係。キスしたこと。
『まだ黙ってて。今日明日考えたい』
そう言って詩音には口止めされていた。されてはいたが、それでいいのか。
その疑問は昨日、今日と付きまとっていた。バイトは終わって佐々木とも別行動。京子の家は知っている。前に近くの公園まで行った。いなくてもいいや、行ってみよう。
京子の家に、家の近くの公園に向かいながら思うこと。
オレは詩音の家も知っていて昨日行ったところだ。今からもう1度行く選択肢もある、だけど。
向かうのは京子の自宅のそばの公園。罪悪感からなんだろうな。断定は出来ないけど否定もしない。今日会いたいのは京子なんだ。
オレは気付けば、息が乱れるほどの心拍数になっていた。飛ばしてるつもりはなかったけど、無意識に飛ばしていた。
時間は夕方と言うにはまだ早い。京子は休みの日には昼寝をよくすると言っていた。今日はどうなんだろ。
公園から電話する。京子はコール3回で出た。公園に来てる、そう言うと『行くよ』声のトーンはやや低め、やっぱり寝てたのか。
悪いことをしたな、そう思いながらも会いたい気持ちが勝つ。
チャリンコを公園に停めてペンチに座って待つ。落ち着かない。
昨日のことがある、詩音には口止めされている。会ったら京子になんて言う?
話すのか、話さないのか。それさえ決めずに来た。
身勝手な行動なんだろうか。
キスだろうとなんだろう、事故ではなかった。突発的かも知れないけどそこにはキスをしたい、詩音と。その意志はちゃんとあって、したのだから。
ため息ではない、緊張を和らげるためにした呼吸。
その呼吸を吐き終える前に目にしたものが、そんなささやかな緊張感を取る行動にまったく意味がないことを証明した。
人影が見えた。初夏の日差しに目を細めた京子の姿、そして。
詩音。
京子の隣には詩音がいて、居心地悪いときにいつもしているように手をムニュムニュとさせていた。
顔色が悪い、緊張感からだ。きっと、それはオレも同じだろう。
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