第85話 ミヤビですが、なにか?

「自分、北町雅ッス」


 すっと立ち上がって頭を下げる。スポーツ女子ぽくてなんか、新鮮だ。


 髪はロング、超ロングで後ろで束ねてある。所謂いわゆる『ポニテ枠』だ。身長は京子よりも高い。


「あっ、オレは冬坂とうさか亮介りょうすけ。お姉さんの―まぁ、いいや。君、背高いね。お姉さんよりだいぶだろ?」


「はい、160くらいかなぁ。もう少しあるかもです。あの、みやびです!」


「160なの?なんか小顔だからめっちゃ高く見えるよ、その北町さん」


「あっ、うちご存知の通りみんな『北町』なんで、北町で呼んだらみんな振り向いて不便です。みやびで」


「じゃあ、その雅ちゃん」

「雅」

「雅さん?」

「雅じゃないと返事しません」


 なに、北町家女子は全員頑固なの?お母さんも頑固なの?


 別にいいよ、年下なんだしさ、呼び捨てでも。体育会系ってそうなのかな。たぶん違うよな。


 まぁ、いいや。


 むしゃくしゃしてるし、きっと何やっても京子には『あてつけ』って取られるだろう。


「じゃあ、雅で。オレのことは?」


「冬坂さんでは!」


「何自分だけフツ―なんだよ。じゃあオレも北町ちゃんでいいだろ?」


『はぅっ』そんなよくわからない擬音を発して考え込む。背が高くてしっかりしてるけど『JC』なんだよな。


「候補です、まず『センパイ』『亮介さん』『亮さん』あと―『お兄ちゃん』?」


「お兄ちゃんで」

「えっ、即答!しかもゼッタイないヤツ!呼んでもいいんですけど、ちょっと姉的に嫌なんで『亮介さん』で」


 姉的に嫌なんで、か。


 今のオレとは気が合いそうだ。ふたりで悪口言おうぜって、性格悪いなオレ。やめとこ。


「お姉さんのこと何て呼んでんの?」


「えっ、あ。フツ―です。『おねぇ』ですけど、興味あります?」


「あ、いや特には。そのつかみ的な?」


 アレ京子の話はダメな感じ?反抗期なのかな。まぁ、いいや。今日のオレにはちょうどいい。


「部活はバスケ?」

「そうです、バスケッス。亮介さんは何かしてます、スポーツ」


「オレは部活はしてないよ、ボクシングをたしなむくらいに」


「ボクシング?なんかカッケーですね。なんでですか?」


「なんで、なんでか。中学の時陽茉ちゃ、姉がちょっといじめられて。弟がボクシングやってたら―的な?そんな、感じ。不純だろ、動機」


「いえ、お姉さん好きなんですね。そうですか―」


 おっと、うっかり口を滑らせた。これって悪友の京順けいじゅんとボクシング仲間の公人くんしか知らないやつだ。


「これお姉さんには言ってないから―」

「黙ってます。っていうか喋んないんで、基本」


 あ、基本喋んないんだね。ガチ反抗期なんだね。


 さて―どうしょ。このままここで喋るのもありだなぁ。戻っても気まずいし。


「亮介さんはもう帰るだけですか、予定とか」


「ないよ、元々バイト帰りだったし―」


 色々うまく行かないし―とは流石に出会った直後の年下女子には言えんよな。


「バイトしてんですか、大人!

 どんなバイト?」


「えっ、ファミレスだけど、あのナッシュビルっていう。始めたばかりだよ」


「ナッシュビル、知ってる!行ったことない、あのね―」


「いいよ、行こうか」


 ぴーんと跳ねる年下女子に目を細める。感情がストートでわかりやすい。なにやってんだろ、そう思うけど、最近ちょっと疲れてる。


 単純に息抜きしてもいいだろ。


「亮介さん、ごめんシャワーマッハで浴びて着替えてくる!あっ、私ジャージしかない、どうしょ一応よそ行き用のジャージなんだけど」


「ジャージでいいよ、待ってる」


「えっ、ほんとありがと、うん!」







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