第86話 説教されたくない年頃。

「マジうざい」


 北町家の門前で待機のオレの耳に届く女子の怒声。そして派手な足音。これは間違いなく北町妹、みやびのもの。


 そして、相手は言わずと知れた北町姉、京子だ。


 ちなみにオレとも絶賛冷戦中。


 つまり京子は2面に敵を持つ状態。上総守かずさのすけですら両面の敵は避けようとしたのに…


 ―って言うか上総守かずさのすけって誰?


 まぁ、ここはテンプレ通り雅が飛び出してきて、それを追った京子とオレが鉢合わせ。関係さらに悪化。


 はい、ツミ!いいよ、別に今更。今日は何してもうまく行かない。


「亮介さん、行こ!」


 おっと、只今悔し泣き中。やっぱり追っかけてきた京子。足元サンダル、これもテンプレ。


 さてーキレられるんだよな、そう思いきや―


「亮ちゃんこんな時にゴメン、雅一緒にいてあげて」


「あっ、ああ」


 ここはテンプレじゃなかったな。眉間のシワが妹を心配する姉を物語る。拍子ひょうし抜け。


 オレはスタスタと先に行ってしまった雅を追う形。歩きのくせに早いなバスケ女子は。


 オレはチャリンコに乗って追いつく。


「亮介さん、なんかスイマセン」


 雑に涙を拭きながら謝る。姉妹ケンカに巻き込んだことを謝るけど、別にいい。こうなるだろうとは思ってた。


 京子の反応が意外ではあるが。


「いいよ、腹減らないか」

「減りました、そのすごく」

「任せろ、ナッシュビルのクーポンあるぞ」


 出来るだけ軽めに明るく振る舞うと、ちょっと吹き出す。怒ったり笑ったり、感情がハッキリしてる。


 オレはチャリンコを降りて押す。雅は歩道内側を歩かせる。


 クルマの通行量が増えてきて危ないから。


「いいジャージだな」


 オレは雅の白に紺の細いラインのジャージを褒めた。お世辞ではなくスポーツ女子の雅には似合ってる。


「お気にです」


 泣いたところを見られたのが恥ずかしいのか、泣き声を出すのが嫌なのか返事は少なめ。


 気まずいのも嫌だし、変に気を使うのも違うので敢えて触れる。


「ケンカか」


「ケンカというか、説教。勉強しろ的な、自分だって勉強出来ないクセして」


「確かに」

「―ですよね、バカですよね」

「おまえ、コメントしずらいわ」


 雅は笑う。京子とは違う声のトーンで仕草で。1歳違うだけで京子がすごく大人に見える。


 まぁ、姉妹全然似てないから比較になんないけど。


「部活ばっかせんと勉強けなアカンやろ、受験もうすぐやんか」


 京子みたく言ってみた。雅は目を丸くしてぱちくりさせる。


「こんな感じだろ?」


「すごい、完コピだ。亮介さん関西系?」

「いや、だって京ちゃんキレると関西弁だろ」

「あっ、はい。完コピ出来るくらい『おねぇ』をキレさせてるんだ、亮介さん。ウケる」


 どの辺にウケるのかいまいちわからないが、雅の元気ゲージは元通りになった。


 ちょっとだけ肩の荷が降りた気分でファミレス・ナッシュビルのドアを押すと口を『への字』に歪めて腰に手を当てた望店長。


冬坂とうさか、別にいいがお前何人新しい女子連れてくんだ?」


 心なしかさげすみの視線を感じる。おかしいなぁ、オレはボランティアで女子を元気づけようとしてるのに、ここは褒められていいはずなんだが…


 あっ、妬いてるな。睨まれた、ハズレか。















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