第127話 タイプな考え方。

「あの、ヤキモチ焼きました。確かに」


 あれっ、どうしたんだオレ。簡単に本心を吐いた。思春期男子はこんなに簡単なはずない。


 難しいお年頃なのだ。さわるもの全部を傷つける『とがった』お年頃なのに。


 なんたる借りてきたネコ化。そしてこんな年端のいかないガキンチョのヤキモチに喜ぶ大人女子。


 まぁ、いいや。何となくわかった。


 オレは恋愛に求めるのは『安心』『安定』であり、『ドキドキ感』とか『駆け引き』とかは二の次、三の次。そうは言うが、望さんにドキドキしないわけじゃない。


 オレは何か望さんといるととても居心地がいい。居心地がよくて、つい。いつもは言わないようなことを言っている。別に隠すようなことじゃないけども、言ってないことって意外に多い。


 ヤキモチ焼いて喜んでくれるなら―オレはつい調子に乗ってしまう。


「望さん、そのドレスって着て誰かに見せたりしますか」


「いや、誰にも。どうして?」

「その胸元がその―」

「胸元?」

「胸元が大胆と言うか、露出が多いと言うか―」

「露出が多い服を着てほしくない?」


「ん、まぁ。そんなかんじかなぁ、と」


 望さんは少しポカンと口を開けて、考え事をしている。そして考え事がまとまったのか顔を赤らめながら―


「えっと、これはアレかな。独占欲的なものと受け取ってもよろしいのでしょうか?」


 何かよくわからない『へりくだり方』だけど、確かに独占欲だ。そう言われると無性に恥ずかしい。どんだけ年上に対して、生意気ななんだよ、オレ。


「すみません、独占欲ですよね。生意気ですよね」


「亮介質問なんだけど」

「はい」

「もし倒れたらこの格好で抱っこしてくれるのかな。そのキュン死しそうなんだけど」


 オレたちは長々と玄関先で話したあとリビングに。望さんはグレーのスウェットに着替えていた。


「あっ、しまった」

「どうした」

「いや、そのドレス姿写真に取りたかったかな」

「えっ、マジで。着替えてくる」

「いや、そんなまた―そうだ。そう、また来たときにします。それだと、その『来る』口実になるし」

「また来てくれるの」

「来てもいいんですか」

「来てほしい」

「来たいです」


 ふたりしてガチガチに緊張している。そんな緊張するようなことはないんだけど、ふたりして『お見合い』をしているように緊張している。


「お見合い―みたいですね」

「ほんと」

「ドレスかわいいかったですよ」

「更に緊張させようとしてる」


 バレたか。いや少しイジるだけの余裕が出来てきたのは事実だ。


 望さんはすっと立ち上がり別室に行った。そしてテッテっと戻ってきてスライディング気味に正座した。


「あのね、こういうの嫌いじゃないといいんだけどね。部屋だと窮屈きゅうくつかなって『おそろ』なんだけど―気にするかなって思って安いの買ったんだ。着替えない?」


 望さんは真っ赤に顔をしながら、自分と同じ色のスウェットを差し出した、オレが気にしないように高価じゃないものを選んで。


 どうしょう。すごくタイプな考え方だ。









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