第6話「野菜を育てていたと思ったら魔物を育てていたようだ。なにを言ってるかわからねーと思うがオレもわからん」
「アンタねぇ、魔物栽培しようなんて一体なに考えてんのよ!」
いやー、ないわー。ないっすわー。
先程からオレの襟首を掴んだままグイグイと前後に揺らしてる少女。
暴力系ヒロインは人気が出ないとあれほど言っていただろう。なのになぜ出しちゃうかなー。
「アンタ、なにか失礼なこと考えてない?」
ジト目でオレを睨む少女。
「いやいや、そんなことはありません。ただあまりにも可愛らしいお嬢さんだったのでぼーっと見てしまってました」
とオレのそんな発言に「なっ?!」と声を上げて顔を真っ赤にして離れる少女。
んー?もしかしてこの手の話に弱いタイプか?
「そ、それよりも答えなさいよ。なんで魔物なんか育ててたのよ?」
と話題を変えようと先ほどの質問の続きをしてくる。
「ムシャクシャして育てました。魔物だとは思っていませんでした。反省しています、以上」
「は?」
文字通り「は?」という顔をする少女。その後、なにやらこちらを疑うような視線を向ける。
「知らなかったって、そんなはずはないでしょう?種を育てるってそれ魔物を育てると同義じゃない」
「いやだから、魔物の種だって知らなかったんですよ。てっきり何かの野菜の種かと思ってたら」
と、そこまで言うと少女はさらに疑問の顔のまま問いかける。
「ヤサイってなによ?それなんかの魔物の名前?」
「は?」
今度はオレが「は?」という顔になる番だった。
いやいや、野菜は野菜でしょ。この子何言ってるの?
とここまで考えて、一つの想像に思い当たる。
いや、まさか、そんな、そんなデンジャラスなことあるはずがない。が、ちょっと確認のために聞いてみよう。
「えーと、ひょっとして、だけど、この世界って種っていうと魔物の種しかないの?」
「当たり前じゃない。それ以外になにがあるのよ」
やっぱりかい。どうしてくれるんだよ畜生。また詰んだじゃねぇかよ。
えー、じゃあ、なに、この世界って魔物育ててそれを狩って食ってんのー?ありえないだろうー。どんだけ危険な世界なんだよー。
って、思い出した。
「ああああー!オレの育てた実がー!!」
先程目の前の少女に斬られた植物。それが宿していた実。それが枯れてる。なんで?!お前さっきまですげえみずみずしく実ってたじゃん!!
「魔物が死んだら実ってる実も枯れるわよ?そんなの常識でしょ」
そりゃこの世界の常識だろう。こちとら、んな常識初耳だわ。
「マジかよー。あー、じゃあ、どう栽培すればいいんだよー」
この世界の植物は全て魔物。そして実ればそれと同時に魔物になって襲いかかる。けど、それを倒してしまうと実ったものは取れない。これ予想以上に難易度高くね?この世界の野菜とか果物って採るのにどんだけの難易度なんだよ。
「ちょっとアンタ、だからその栽培やめなさいって言ってんのよ」
と目の前の少女が釘を刺すようにそう言ってくる。
ん、そう言えばこの少女は一体どうしてここに現れたんだ?
「ところで、つかぬことを聞くんだけど君はどうしてここに?偶然通りかかったの?それともオレの叫びを聞いて?」
「はあ?そんなわけないでしょう。苦情が出てたのよ。街の丘の方でなにか変なのを育ててる怪しいやつがいるって、しかも噴水の水を泥棒してるって」
ああ、そりゃ苦情出るか。
「あとアタシの兄から頼まれたのよ。アンタのことを追い出せって」
「ん?兄?」
はて、この少女の兄とな?そんな人物と会ったこと会ったか?
こっちに来てからむしろ人との接触なんてほとんどなかったし、その間に誰かと人脈なんか作った覚えもないんだが。
はっ?!まさか食堂のオッサン!あのオッサンなのか?!
「公園の警備をしてる兵士よ。アタシの兄」
「ああ、なるほど」
納得。どうやら知らないうちにマジでフラグは立っていたらしい。
「で、アンタこの街から出て行ってくれる。いくらなんでも魔物育てるような危ない奴はここへは置いておけないわ」
確かにこの少女の言うことは最もだ。しかし、出ていけばオレは確実に野垂れ死ぬ。それはなんとか避けたい。
「なあ、この世界の野菜、じゃなかった。魔物の実とかってみんなどうやって採ってるんだ?」
素朴な疑問。
「そりゃ、冒険者が採ってくるしかないでしょう。あいつら倒すと成ってる実も使えなくなるから殺さずに採らなきゃいけないし、そうした意味でも魔物がつける実って貴重なのよ」
なるほどなー。やっぱ簡単じゃないのかー。ってちょっと待て。今なんか貴重って聞こえたぞ。
「貴重なのか?」
「ええ、そりゃあんまり収穫ないからね。特に最近は植物型の魔物も数が減ってきてるせいで、食堂とかでも品数が減って、アタシも魔物の実とか食べてないのよ」
そ れ だ。
このままここに居座れる突破口を見つけたかもしれん。
「なぁ、少女騎士さん」
「リリィよ。なにそのまんまの呼び方」
「なぁ、リリィ。君、最近魔物の実とか食べてるかい?」
「え?」
いきなりのそんな質問にキョトンとするリリィ。やがて小声で「あんまり食べてないかも……」と呟く。
「なら、ここで一緒に魔物を栽培しないか?」
「は?」
なに言ってんだこいつ。みたいな目で見られる。
いやだが、割と冗談抜きで言ってる。
「よく考えてくれ。オレが魔物を栽培する。君がその魔物の実を取る。これで君も誰はばかることなく魔物の実を取れるということだ」
「それはそうだけど、それってアタシへのリスクの方が大きいじゃない」
「大丈夫!そこは考える!君が狩りやすいようなんとかしてみる!量も減らす!だから頼む!君の力を貸してくれ!半分!収穫の半分持っていってもいいから!」
さすがに半分はあとで後悔しそうだけど、今ここで追い出される様はマシだ。
リリィの方も魔物の実を最近食べてなかったのか、ちょっと揺らいでるっぽい。
「……まあ、今回の件はアタシの兄から警告しろってことでここに来ただけでまだ街からアンタを追い出せって依頼は来てないしね。見逃してあげてもいいかも」
「本当か!」
「ただし!」
ビシッと鼻先にリリィの細い指が触れる。
「アンタが栽培した魔物はきっちりアタシも収穫させてもらうからね」
同盟締結。
こうしてオレはリリィという少女の下、改めて魔物の栽培に挑む。
うん、今度はちゃんと収穫できるようになんか手を考えておこう。
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