第150話「栽培再開」

「いやー、それにしても久しぶりの栽培は落ち着くなー」


 家に帰ってから一日。オレはそれまでの旅の疲れを癒すようにゆっくりと部屋で休んだ。

 朝、ベッドから起きるといつものようにフィティスが潜り込んでいたために、慌てて部屋から追い出したが、そういうのも前にここで住んでいた時は日常茶飯事だったので懐かしいものだ。


 部屋から出るとダイニングルームではフィティスが料理を作ってテーブルに用意してくれていた。

 料理はどれもオレの畑から取れた魔物を使ったものであり、それを食べようとしたところ、別の部屋からルーナが姿を現す。


「……おはよう」


 なお寝起きはあまりよろしくないのかすごく眠そうに瞳をゴシゴシしながら座る。

 あれからルーナもオレの家に泊まることになった。

 元々記憶喪失で行く場所もなかったので、これもまあ順当な結論であった。

 幸い、現在のオレの新しい家は二階建ての大きな家になっており、使ってない部屋もたくさんあるため数人が泊まっても不自由しないので全然オーケーなのだが。

 なお、リリィとは昨日の夕方に別れ、彼女はいつもこの街で利用しているという宿の方へと移動した。

 そんなこんなで皆で朝食を取った後、オレは久しぶりに庭に出て、そこに栽培されている魔物達の様子を見る。


「おー、相変わらず順調みたいだな」


 庭の一角ではデビルキャロット達が走り回り、別の一角ではコカトリス達が仲良さそうに日向ぼっこしている。

 別のエリアでは、以前に育てたヒュドラが、バハネロを頭に乗せて移動してたりと、牧場というより魔物のテーマパークみたいになっている。


 さて。現状、魔物の栽培は十分な量を揃えている。普通に暮らすだけなら今の栽培量でも十分だろう。

 が、折角砂漠でいろいろな魔物を栽培し、新しい栽培方法を確立したので、ここでもそうした新種の魔物を栽培するのも悪くない。

 なによりも、新しい魔物を生み出すことで世界の貢献に繋がり、結果それが世界の進化を早めるのなら、やるに越したことはない。

 そう思い、オレは早速倉庫に保管していた種と魔物の種類などを調べる。


「エントの種とか、あったんだな。そういえば前にエントさんに会った時に種をちょっともらっていたな」


 ここからすぐ隣にある森の奥に居るエントさんには何かと世話になった。

 他にもオーガさんにもらったいろんな魔物の種や宝石。

 シンからもらった砂漠の魔物の種。バジリスクやデザートドラゴンなど様々な魔物の宝石もあった。


「いっそのこと伝説のポ○モンみたいな魔物とか生み出してみたいな~」


 どうせやるなら、そうした飛び抜けた魔物も作ってみたいとかいう妄想も生まれてしまう。

 いつか数百年後、オレが生み出した魔物が伝説となり、それを人々や冒険者が探し求めるなんて面白そうだ。

 まあ、あくまで妄想レベルでとどめておいて、ここは軽く新しい魔物という感じに栽培してみますか。

 そう思いオレはまずエントの種を手にとった。


「まずはイメージが大事だ。親父も言っていたがオレが出来ると確信して栽培することが第一なんだ」


 どこかの投影者ではないが、イメージするのは常に最強の自分。

 おそらくはそんな感じに近く、オレが出来ると確信することによって栽培することでその魔物は生まれる。

 オレのスキルは本来は神が持つ命を生み出すという創生スキル。

 だからこそ、不可能はないと思い込むことが肝心。

 以前、オレは樹からコカトリスが生まれるといったことを可能としたのだ。

 あのように一つの樹から魔物が生まれるというサイクルを作れれば、定期的に魔物が採れるようになり、この世界の食料問題もかなり解決するだろう。

 冒険者を使って魔物を狩る必要がなくなり、安全な場所で畜産が可能となるのだから。


「……いや、待てよ。それだったら、いっそのこと“食べ物”を生み出す魔物がいれば楽じゃね?」


 と、そんなアイディアに気づいた。

 たとえば枝先からチョコを実らせる魔物がいたらどうだろうか?

 それならチョコを作るための材料をわざわざ魔物から取る必要はない。

 いや、もっと言えば、キャベツとか地球の野菜を実らせる魔物なんて、どうだ?


 一見バカバカしいと思えるアイディアだが、元々そうした野菜を生み出す能力はオレの親父が持っていた。

 というのも親父はこの世界の魔物を野菜に変化させるスキルを持っている。

 そして、オレはそんな親父のスキルを受け継ぎ、それが進化したことで魔物を自在に生み出すスキルを手に入れた。

 ならば、オレも親父同様に魔物を野菜に変化させる能力があっても不思議はない。

 以前にもそうした事を親父に指摘され、「ただ魔物を野菜に変化させるだけじゃオレと変わらない」みたいな事を注意された。

 結果としてその助言のおかげで異なる魔物を組み合わせることで新しい魔物を生み出す複合栽培を可能とした。


 そして、今のオレならその複合栽培で魔物に野菜を生み出す能力を与えることが出来るのではないか?

 それならば、親父が持つ能力を使って、更にその上に行けることになる。

 魔物はそれ自体が意思を持った生物だから、それが自在に枝先にキャベツやら、枝豆やら、ナスやピーマンを実らせれば、それだけでこの世界に新たな農作の概念を生み出せるんじゃないか?


 うん。行けるかもしれない。


 オレはそう思い早速エントの種を取って、倉庫に保管していたチョコレートと、前に親父からもらった野菜の実とそれらの種を別々の場所へと埋めた。

 出来る出来ないではなく。まずはやってみること。なによりも栽培するオレが可能であると思うことが重要。

 そして、これが実現出来たのなら、これからの魔物栽培にまた大きな変化をもたらす。


 オレは新たな魔物栽培の可能性にワクワクしながら、植えたエントの種に水や栄養をやりながら、その成果が出るのを楽しみに待つのだった。

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