第15話「開幕!食堂コンテスト!」

「グルメ勇者?」


なんだその明らかに取ってつけたような二つ名は。そいつはそんな名前の勇者でいいのか?


「世界各地を渡り歩いて高級食材と言われる魔物を専用に狩っている勇者よ。そいつが狩る魔物はどれも味が超一品。中には幻と呼ばれた魔物すら見つけ出し狩っているほどの腕前よ」


「なるほど、で、そいつが今度の食堂コンテストに出ると?」


「まあ、正確には食材提供の助っ人として来てるみたいよ。ちょうどアンタと同じ立ち位置ね」


「……そいつが食材を提供している食堂は?」


「ジョンフレストランよ」


やはりか。だが、それが本当なら確かに厄介なことだ。

いくらこっちが高級食材に匹敵するエントタケを作ったとはいえ、その数は一品。

対して相手は高級食材となる魔物をいくつも入手しているだろう勇者。それから食材を手に入れ調理できるジョンフレストラン。

くそ、金にものを言わせて厄介な奴を助っ人に呼んだものだぜ。

オレのその考えと同じなのかミナちゃんも先程までの歓喜はどこへやら心なしか落ち込んでいる様子。

だが、ここで退いてはオレを信じて頼ってくれたミナちゃんに申し訳ない。


「大丈夫だ、ミナちゃん。まだ時間はあと数日ある。数日中に必ずオレがグルメ勇者が用意する高級食材よりも美味しい食材を作ってみせるよ!」


「キョウさん……」


オレのその宣言に期待を宿すミナちゃん。

こうなったらやってやるとも、時間はもうない。なんとしてもう一品。エントタケに匹敵する食材を生み出してやる!






そんなこんなで自宅という名のボロ屋で考えることしばし。

やはりそう上手くいくはずはないと現実がのしかかっている。

そもそもエントタケですら、栽培するのにひと月かかった。すでに大会までは目と鼻の先。

今から新しい高級食材を探し、それを栽培するなんてとても時間が足りない。

となれば、発想の逆転か。現在、うちで育てている魔物をエントタケのように高級食材に匹敵する食材へと改良することか。

オレは寝そべった状態からゆっくりと上体を起こし考える。お腹の上で昼寝をしていたドラちゃんがその勢いでコロコロ転がり、寝ぼけ眼でこっちを見てくる。

マンドラゴラ。おそらくこの子を使えば勝負には勝てるかもしれない。

だが、それはだめだ。この子は使わない。今のところ栽培に成功したのはこのドラちゃんだけだが、仮に他のマンドラゴラが生まれたとしても彼女たちを食材に使う気は毛頭ない。


「よう、兄ちゃん。聞いたぜ。次の食堂大会、なにやらピンチらしいな。いよいよオレを煮込むを時が来たか?」


ジャック・オー・ランタン。こいつならどうだろうか? 品質を改良すれば、もっと美味しくなる可能性は確かにある。

まあ、どっちみちこいつは煮込む気は全くないが。

オレはもう一度現在うちで栽培している魔物の種類とその味を思い出す。


コカトリス。味はまさにチキンそのもの。しかも連中が生む卵はぶっちゃけ地球のやつよりも美味い。


キラープラント。成熟すると赤い果実を実らせるが、一見すると桃のようだが実はこれ中身はトマトの味。ただし実が成熟するとキラープラント自身も自我が芽生えて周りのものを無差別に襲いかかってくるので、そうなる前に口の部分を縄で縛っている。


デビルキャロット。人参型の魔物で引っこ抜くと小さい手足がバタバタ動く。あまり成長しすぎると、地面から勝手に抜け出しそのまま足でどっかに行く。まだ手足が小さい時期に収穫した方がいい。それでも地球の人参の倍くらいには大きい。


マッシュタケ。こいつに関しては前回のとおり。


この中のどれかを改良し品質を向上させるのが一番現実的な手段だろう。

一応ひとつ目星は付けてあるんだが、果たしてこいつをどう改良すればいいか……。

オレはもう一度そいつの食材について思い出し、地球で見た(主にテレビでの)知識を思い出す。


「……ん」


待てよ。そう考えると前々からひとつ違和感があった。

他の魔物とその魔物の決定的な違い。他の魔物はそうでもないのに、なぜかその魔物だけがする行為。


「もしかして……逆だったのか?」


オレはそこにある一つの可能性を感じる。だとすれば、いけるかもしれない。

だが、大会はあと数日。これはマッシュタケのように実験を重ねて、エントタケへ挑戦したようにはいかない。

文字通りぶっつけ本番。残り日数を考えれば栽培できるチャンスは一度しかない。

ええい、考えるよりも行動だ! オレはその可能性に全てをかけ、そいつの栽培に適した場所を探し外へ飛び出した。






「とうとう始まりました! 食堂コンテスト! 我が街の名だたる食堂全てが参加されております! 実況は私ギルドカウンターの受付嬢サリー! 審査員はこの街の領主エクレーゼル様とその他美食会の皆さんでーす!」


アナウンサーである受付嬢のその紹介に対し歓声を上げる観客たち。

参加者の数はこの街の名だたる食堂ということもある五十人を超えている。

だが、その中でもオレ達の敵となるのはただひとりのみ。

ジョンフレストランのオーナーと、その隣に立つ大和撫子という表現が似合う可憐な少女。

おそらくあれがグルメ勇者なのだろう。

名前からして小太りな男を想像していたが、全く違った。むしろモデル顔負けの美しい美少女。

長く黒い髪をたなびかせ、異国の服を着こなし、瞳を瞑り静かに佇むその姿はまさに日本男児の心を鷲掴みにするものがある。

ただ胸に関してはわりと控えめだが、むしろそこが逆に細身のスタイルを引き立たせている!

とまあ、そんなオレの心の中の感想を読み取ったのか、隣に立つリリィの目が冷たい。


一応、こちらもやれることはやった。

結果については四の五の言うつもりはない。全てはミナちゃんの料理で証明してやろう。


「それでは食堂コンテストー、開幕ー!!」

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