第69話「グルメ勇者VS雪の魔女」
機先を制する、という言葉がある。
その言葉通り、相手より先に行動することで気勢を挫くという意味合いを備えていた。
「お待ちください」
グルメマスターの手により対戦相手と指定料理の開示が行われ、次の三日後という説明が行われた瞬間、即座にそれを行動として移したのはフィティスであった。
「一つ提案がございます。三日後という準備期間についてですが、私の方に関してはその必要はありません。もしもそちらの魔王側についても同様に準備が整っているのでしたら、今この場でデザート勝負の方に移していただけないでしょうか?」
それはまさに相手の機先を制するフィティスの一言。
これまで対戦相手の発表と指定料理の開示からの三日間という準備期間はむしろオレ達の側へと配慮のようなものであった。
なにしろ指定料理を決めるのは全て向こう側であり、それは向こう側にとって準備はほぼ整っていることを意味しているのだから。
にも関わらずフィティスのこの発言はむしろ、自分たちへの時間的余裕と準備を放棄することを意味する。
しかし、フィティスから感じられるのは圧倒的な自信。
そこにはむしろ、先ほどのミナちゃんの勝利を踏まえた上で、このまま流れを持ち越し自分の勝負にて勝敗を決めようという意思の強さが感じられた。
「と、おっしゃってるいるがそちらの魔王側代表はどうかね?」
フィティスの提案に対しグルメマスターは次の魔王側代表選手イースちゃんに対し問いかける。
それに対して、しばし考えるような素振りを見せるイースちゃんだが、やがて静かに首を縦に振り、彼女もまたフィティスの提案に対し頷く意思を見せる。
「ふむ。双方の選手がお互いに納得ということならば我々もこのまま引き続き審査をしても構わぬ。考えようによっては次のデザート勝負も食後ということを考えればタイミングとしても悪くはない」
そうして、次なる第四回戦・副将戦の勝負は予想外の連戦という形へと繋がり、フィティスとイースちゃん。
二人のデザートバトルが実施されることとなった。
「フィティス、大丈夫なのか?」
続けての料理バトルに向け舞台へと向かおうとするフィティスにオレは思わず声をかける。
それに対してフィティスは心配ご無用とばかりに微笑む。
「問題ありません、キョウ様。この日のために私はいついかなる時に対戦となっても大丈夫なよう、あらゆる料理に対する準備を完了させております」
そう言って彼女がどこからか取り出した袋の中には無数の食材から加工品、調味料、料理器具とありとあらゆる材料が揃っていた。
「ま、マジかよ、一体いつの間にこんな?」
「無論、皆様が料理の準備を行っている際、私も同様に準備を行っていただけですわ。特にキョウ様のお父上であらせられますケイジ様には様々な野菜や果物などを分けていただき感謝しております」
そう言って親父に軽くお辞儀をするものの、当の本人は「気にしなさんなー」といつもの態度。
「なによりミナさんが勝ち取った勝利の流れ、このまま途絶えさせるわけにはいきません。必ず私の手で皆さんに勝利を掴ませてみせます」
「フィティス……」
そこには先ほどのミナちゃんの健闘により感化され、胸の内の熱い感情を刺激された部分が多いのだろう。
なんとしても自分も皆のために報いたいという想いが伝わってきた。
「わかった。お前の好きなようにやってこい、フィティス」
オレからのゴーサインを受け取り、フィティスは静かに微笑み頷いたまま、戦場となる料理バトルの舞台へと立つ。
そこにはすでに雪の魔女イースちゃんがいつもと変わらぬ落ち着いた態度のまま立っており、その肩には彼女の親友であるドリアードのドリちゃんの姿もあった。
「では、これより第四回戦、魔王料理バトル副将戦『デザート料理』を始める。双方、調理開始!」
グルメマスターのその宣言と同時に二人の少女の息をも付かせぬ芸術的な調理が開始される。
果たして勝つのはグルメ勇者か、それとも雪の魔女か。
彼女達が一体どんなデザートを作り上げるのか、オレですらその想像が叶わず、この料理バトルの行き先をひとりの観客として期待していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます