第55話「卵。卵。卵。そして卵」
『卵料理』
古今東西、卵といえば様々な料理で使われ今では料理において必要不可欠と呼ばれるものである。
しかし卵そのものを主役とした料理はそう多くない。
卵はあくまでも主役を引き立たせるためのサポートとしての役割がほとんどなのだから。
だがあえてその卵を主題として料理。
そこには料理に対するどれだけのアレンジ力、発想力があるかを測るのに十分な題材であると言える。
「ですが師匠の得意料理である海鮮に比べれば公平な勝負と言えるでしょう。問題はその卵料理に何の卵を使うのかが重要ですが」
そう、卵料理における決めてとは卵そのものと言ってもいい。
どの卵を使うか。その時点で勝敗が決すると言ってもいいほど、卵料理における卵の選別は重要である。
「卵の中で格別と言われているのはご存知の通りロック鳥の卵です。ですがロック鳥は存在そのもの貴重でそう簡単には見つかりません。まして卵となるとそれ以上です」
「今うちにある卵と言えばキョウさんのところから仕入れているコカトリスの卵に、あとはロックキウイの卵でしょうか」
ちなみにロックキウイというのはオレがこの異世界に来て最初に襲われたあのキウイだ。
一応ロック鳥の劣化種と言われているらしいが、実際は繋がりは全くないらしい。
ちなみに味に関してはどちらもそれほど大差はない。オレ的にはコカトリスの卵の方が好みかな。
「一応ここから東の森に生息していますCランク魔物のペリュトンの卵と、あとは南の洞窟の主であるBランクのラドン。この二体の卵を昨日のうちに手に入れることができました。ひとまずこれらの卵を使って、どれが一番私の調理法に合うか検証したいと思います。よければ皆さんにはその試食にお付き合い願えないでしょうか?」
「もちろん、構わないぜ」
「アタシも協力するわよ」
「私もです!」
「おーおー、いいねー。おじさんもお嬢ちゃんの手料理ぜひ食べたいよー」
なぜかオヤジもちゃっかり混じっているが、まあいないよりマシということでスルーしておこう。
そんなこんなで残り二日後に向けてフィティスの卵料理の修練が始まった。
「このペリュトンの卵を使ったオムライス、中が半熟でとろけるような美味しさだわ。この中ではペリュトンの卵が半熟だった際、一番味が濃厚ね」
「こちらのフレンチトーストも絶品です。ふわふわでまるでお菓子のような甘さと、おかずとしての美味しさを備えています」
「この味付け煮卵も味が濃厚に染み渡っていて美味しいよ。このラドンの卵、味はほかよりもかなり濃厚かもな」
「ありがとうございます。皆さん、ですがまだまだ改良の余地はあるはずです」
あれからフィティスの調理した卵料理を試食したが、どれも想像以上の美味しさであり彼女の調理レベルは格段に前よりも上がっているのが分かる。
なによりも素材を活かした調理法が今の彼女に備わっていた。
とはいえ、どの卵にもそれぞれの旨さが存在し、一概にどれがいいかとは判断できなかった。
フィティス自身もそれに気がついたのか、どの卵でどの料理をするべきかまだ悩んでいるようであった。
「いやー、どれも美味いねー。けどオレ的にはこの卵かけご飯がシンプルで一番好きだなー!」
と、そんな中ひとり色々な卵をそのままご飯にぶっかけて食べている親父の声が響く。
親父、それは料理と言っていいのか?
しかし、フィティスは親父の指したその卵かけご飯にしようした卵をじっと見ている。
「……キョウ様のお父上が食しているこの卵かけご飯の卵はキョウ様のところで飼育されているコカトリスのものですわよね?」
「ああ、やっぱ卵かけご飯の卵と言ったら鶏のやつが一番だからな」
あれは鶏と言えるのだろうか。
そんなことを思っていたがフィティスはその卵を掴みなにやら考え込み、他の卵を手に取り見比べていた。
やがて何かに気づいたのか、こちらの方を振り向くお願いをしてくる。
「キョウ様。よろしければ今コカトリスを飼育している場所に案内してもらえませんか?」
「ここが今のコカトリスを飼育している場所だ。一つはあの庭の方に放し飼いにしているコカトリスと、もう一つは最近改装した小屋の中で飼育しているコカトリスだ」
そう言ってオレが指した場所には二種類のコカトリスが飼育されていた。
小屋の中で飼育しているコカトリスは、以前大料理大会で準優勝した際、小屋を改装して一部をコカトリス部屋にしたものだ。
そこでは餌の管理をコカトリス達が卵を産んだ際、すぐに回収できるように設置されている。
地球で言う鶏の飼育施設をようやく作れた感じだ。おかげでここ最近の卵の生産量は以前よりもかなり上回っている。
一方の庭の一部で放し飼いにしているコカトリスはそんな小屋の中に入れられなかった連中をしょうがないから外で飼育している。いわゆる溢れた連中であり、寝床は雨宿り用の小屋が一つあるくらいで、夜になると皆そこに集まって寝ている。
それ以外は皆、庭の柵から出ないようあっちこっちを歩いている。
そんな二つの場所で飼育されているコカトリスを見ていたフィティスはなにかに気づいたように宣言する。
「キョウ様。一つ試させてもらってもよいでしょうか」
「これは……」
「すごい。同じ卵でもこんな変わるのね」
「私も気づきませんでした」
フィティスの出したその卵料理を前にオレ達は驚きに目を見開く。
さっきまでの卵とはまるで味が違ったからだ。
まさかこんな秘密があったとはオレですら気づいていなかった。
だが、いずれにしてもこれでフィティスの料理は決まったはずだ。
そう思い彼女を見るが、それでも彼女はどこかまだ納得していないような表情だった。
「……確かに卵とその調理法は決まりましたが、ひとつだけ納得できていない部分があります。ですがそれをどうにかするには私だけの実力ではどうにも出来なくって」
一体なにを悩んでいるのか。それを問おうとした瞬間、オレ達の背後からテンションの高い声が聞こえてくる。
「やあやあ、皆、こんなところにいたのかー。リリィちゃんのいる町に戻ったと聞いて町の中を探しても見つからないから、町外れまで来てようやく見つけたぞー」
振り向くとそこには数日前にひとりどこかに行っていた戦勇者のアマネスの姿があった。
だが、彼女の姿以上に驚いたのは彼女が片手で引きずっている全長5mはあるかという巨大な水晶のゴーレムだった。
「……あの、アマネスさん。それなんですか?」
「ん? 見てわからんか。次の料理バトルで私が使用する魔物だ。こいつを仕留めるのに苦労してな。なにしろAランクのクリスタルゴーレムだ。その硬度に関して言えばSランクにも匹敵する――」
「いや、じゃなくって、どこをどうすればゴーレムが食べられるって言うんです」
いくらオレでもゴーレムが食べられないことは知っている。
この世界におけるゴーレムとはすなわち武器加工や日用品のための材料。
ましてこのクリスタルゴーレムはその名のとおり体全体が特殊なクリスタル鉱石で出来ており、そこから作られる武器は魔法の武具に匹敵するという。
いくら料理をしたことがないからと言ってこの魔物のチョイスはないだろう。とオレが指摘すると、アマネスはしばしポカーンとして、次の瞬間大笑いをする。
「いやいや、違う違う、栽培勇者よ。いくら私でもこいつを調理しようとは思わんよ。言っただろう、こいつは私の能力を存分に活かすための魔物だと」
「それはどういう……」
「まあ、直接見せたほうが早い」
そう言うや否や、アマネスの手がクリスタルゴーレムに触れたかと思うとその部分が光だし、そこからクリスタル鉱石によって作られた剣が生まれる。
「それは?!」
「こいつが私の持つ創生スキル『
言ってさらにアマネスさんはクリスタルゴーレムに触れ、触れた一部を消失させると同時にその分の質量を別のものへと創生変換させる。
「見よ! これぞクリスタルゴーレム製の包丁! これほどの業物は世界にそうそうあるまい! この包丁を使えば切れないものはなし!」
いや、包丁にそこまで武器としての性能いらないですから。
そうオレが突っ込もうとした瞬間、隣にいたフィティスがアマネスの両手を勢いよく掴む。
「アマネス様! この剣製の創生、武器や包丁以外に他の道具を作ることは可能ですか?!」
「へ? まあ、私がイメージ出来るものならば可能だが」
「でしたら、一つお願いがあります」
師との対決に向けて、フィティスは足りなかった最後のピースをそこで遂に見つけることとなる。
勝負は残り一日。フィティスにとって運命の勝負が迫る。
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