第148話「街への帰還」
「久しぶりだなー。この街に戻ってくるのも」
そう言ってオレの目の前には久しぶりのエルクス王国の都市ミールが広がっていた。
忘れている皆に説明すると、ここはオレが異世界に来て初めて訪れた街。
リリィやミナちゃんと会った場所であり、丘にはオレの家もある。
とは言え、今では魔物栽培という事業のおかげで丘一面に牧場のようなものが広がり、家の大きさも別荘くらいの大きなものへと変化していた。
「折角だし、ミナちゃんの食堂屋に行ってなんか食べていくか?」
「いいわね、賛成よ」
「私も久しぶりにミナさんの食事を食べてみたいですわ」
「うん! ロックもいくー!」
リリィ、フィティス、ロックとそれぞれに賛成の意見を聞いた後、オレはそのままミナちゃんのいる食堂屋へと向かう。
入るとそこはすでに盛況のようで以前よりも広くなった食堂のテーブルや椅子に様々なお客さんが座り、美味しそうに料理を食べていた。
「あ、いらっしゃいませ。ただいまそちらの席が空いておりますので、よろしければ……ってキョウさん!」
「やあ、ミナちゃん。久しぶり」
入ってそうそう店の奥から顔を出したミナちゃんにオレは挨拶し、彼女はそのまま嬉しそうな笑顔を浮かべてこちらへと近づく。
「わー! お久しぶりですー! お元気でしたか? 確か砂漠の国に行っていたのですよね? もうその用事は済んだのですか?」
「ああ、まあ、なんとかな」
ミナちゃんからの質問に答えながらオレ達は店のテーブルに座り、メニューを受け取る。
その際にこれまでのことなどを軽く雑談などをする。
「なるほど。皆さんも色々とあったのですね」
オレ達からの軽い説明を受けて頷くミナちゃん。そこで彼女はオレ達の中で見慣れないメンバーを一人発見し、思わず耳打ちするように問いかける。
「ところでキョウさん。そちらの女性は……?」
「ああ。彼女はルーナ。とある遺跡の奥で拾った子なんだ」
ミナちゃんが見ている先は銀色の髪をなびかせる褐色の美少女ルーナであった。
彼女はあれからオレ達の後を素直についてきて、時折景色や街などを物珍しげに見つめていた。
なお、彼女の膝にはなぜかロックが座っており、どういうわけかロックはルーナになついている様子であった。
「なるほど……。知らない間にまた色々と厄介事が増えているんですね」
こちらの事情をうまく汲み取ってくれたのか、頷いた後ミナちゃんはこちらの注文を聞いて厨房と向かう。
しばらくした後、両手にたくさんの料理を抱えたミナちゃんが奥から顔を出す。
「さあ、どうぞ。皆さん。今日は久しぶりですので、少し多めにしておきました」
「おお、サンキュー! ミナちゃん!」
テーブルの上に乗ったのは久しぶりのミナちゃん特性料理の数々であった。
コカトリスのキラープラントソースかけは勿論、その他にもオレが栽培した魔物や、別の大陸から取り寄せた特注の魔物などもあり、初めて見る料理もいくつかあって思わずヨダレが出そうになる。
オレもリリィもフィティスも長旅でお腹がすいていたためにすぐさま料理にかぶりつき、次々とそれらを平らげていく。
「いやー、やっぱミナちゃんの料理は最高だなー!」
「うんうん、やっぱりミナの料理って家庭的で安心するわー!」
「ミナさんの料理を食べていると、単純な料理の腕や材料だけではなく、普段の食べやすさの重要性を思い知り、私も勉強になります」
口々にそう褒めるオレ達に対し、ミナちゃんはどこか気恥ずかしそうに顔を染める。
一方、ミナちゃんの料理を初めて食べたルーナの印象は――
「――!?」
まるで雷に打たれたようにその場に硬直した後、目の前の料理を黙々と食べ続け、全て平らげた後で真顔でオレに問いかける。
「おい。料理というものはこんなにも美味しいものなのか?」
顔中ソースや食べ残しのかけらがたくさんついており、折角の美人が台無しだったが、本人はそれどころではなかったので答えることにした。
「ああ、まあな。作る人にもよると思うがミナちゃんの料理はオレが知る中でも指折りだよ」
「そうか」
それを聞いた後、ルーナは何を思ったのか突然立ち上がり、ミナちゃんの手を握るや否や、とんでもない宣言をする。
「気に入ったぞ。貴様、私のものになれ」
「ぶ―――ッ!!!」
突然の告白にオレとリリィが互いに食べていたものを思わず吹き出す。
ちなみにすぐさま「ちょ、アンタ汚いじゃない!」とリリィに突っ込まれたが、それはお互い様だろう。
「は? へ? あ、いえ、あの、その、き、急にそういうことを言われるのは……わ、私にはその、気になる方も、いて……」
一方のミナちゃんはルーナからの告白(?)に対し、真面目に応対していた。
「なぜだ? 悪いようにはしないぞ。私は自らの所有物にはそれ相応の敬意を払う。お前にはそれだけの価値があると私が認めた。私は自らが欲したものは手に入れたい性分でな。拒絶は許さぬ。今すぐに我のものになるか、あるいは――」
「そこまでだ」
なおも妙な口説きを続けるルーナの頭を軽くチョップして止める。
「何をする」
真顔でこちらを振り返るルーナ。
うーむ。どうやら、こやつにはこの世界の常識というか、そのへんの知識をちゃんと与えたほうが良さそうだな。
とりあえず、オレはミナちゃんに軽く謝った後、なおもミナちゃんに謎の告白(?)をするルーナの襟首を掴まえたまま、食堂より退出するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます