第20話「雪の魔女」

私は人と話すのが苦手だ。


雪の魔女。

そう私が呼ばれるようになったのは天候操作の魔術を使った際、それが強力すぎて私のいる山脈がまるごと雪に閉ざされてから。

元来、人付き合いが苦手な私にとって人が来なくなり、それはそれで好都合だった。

たまに私のあることないことの噂を信じて退治しに来る人達は凍り付けにしてお帰り願っているが。


ともかく魔女として人里離れた場所から研究をするにはいまの環境はうってつけだった。

私が行っている研究。それは魔物を生み出す技術。


私が知る限り、この世界で魔物を自在に創造し得た人物は歴史上五人のみ。

そのうちのひとり大魔女ミラーカ。


魔女の多くは彼女が生み出したその秘法を再現するべく日夜研究を行っている。

私もそのうちの一人であり親から伝授された知識をもとに一つの魔物を作り出すことに成功した。

その子の名前はドリアード。

人の姿を持っているが、下半身は植物であり地面に根をつけた女の子。


他人との接触を避けて暮らしていた私にとって、その子は初めて接触する他人。

最初のうちはコミュニケーション取るのにも緊張していたが、次第に話すことに慣れていった。


いつのまにか私はその子に研究経過を話したり、将来の夢を話したり

もしも人里に出る機会があれば、その時にやってみたいことを話したりなどした。

けれど、私にはそれは無理だ。


なぜなら私は人と話すのが苦手だ。

ドリちゃんとまともに話すのにも半年以上かかった。

そんな私が人里なんか出ようものなら、たぶんなにも出来ない。


けれど、そうも言えない状況が来てしまった。

ある日、ドリちゃんの具合が悪くなった。

原因がわからない。どうすればいいのかもわからない。

街の医者に聞こうにも彼女は魔物。そして私は初めての人に詳しいことは話せない。


ドリちゃんの具合が悪くなって私は初めて彼女の存在の大きさに気づいた。

口下手で、話す内容が支離滅裂で、自分のことしか話さない私の会話をドリちゃんはずっと笑顔で聞き続けてくれた。

口には言い出せなかったけど、彼女は私にとって初めての友達。


その友達がいなくなる。

嫌だ。なんとかしたい。

でも、どうすれば?


そう考えて山から降りて森を彷徨っていた私はマンドラゴラを見つける。

彼女たちマンドラゴラは至高の食材であると同時にあらゆる病を治す万病薬の元でもあった。

私は彼女を連れ去り、それでドリちゃんを治せないかと考えた。

けれど、その子を連れ帰ってみせてもドリちゃんは首を横に振るだけ。


「その子じゃ私は治せないし、私のためにその子を殺すなんてしちゃダメだよ」


わかっていた。本当はそんなこと。

けれど、それでもどうにかしたかった。

ドリちゃんを救いたい。私の唯一の友達を。

どうすればいいのか本気で悩んでいる私にマンドラゴラが話しかけてくれた。


「あの、事情はよくわかりませんが、もしもあなたがこの人を救うために私をさらったのなら、私のご主人様ならなんとかできるかもしれません」


ご主人様? このマンドラゴラは自然発生ではなく、誰かが作ったものなの?

けれど、もしこの子の言うご主人様とやらがそうだとしたのなら、その人は魔物を栽培できる能力を持った人物ということ。なら救ってもらえるかもしれない。


けれどなんて言えばいいの。

この子をさらった私がその人になんて頼めば。

水晶を見れば、この山に入る三人組が見えた。

そのうちのひとり迫る豪雪に負けずと必死に前を歩く青年。この人がそうなのだろうか?

すごく必死だ。奪われたものを取り戻そうと。


ああ、そうか。私がドリちゃんを大事なように、このマンドラゴラを大事に想う人はいるんだ。

そのことに気づいて私は自分が恥ずかしくなり、同時に言うべきことを言おうと思った。

たとえ助けてもらえなくても、この子のご主人様に迷惑をかけたのは事実。それだけは謝ろう。


そうして、その人たちが山を抜け私のいる塔へ入ってきた時。

私は彼らの前に姿を見せ、頭を下げる。


「……ごめんなさい。助けてください」


人と話すのが苦手な私が精一杯考えたセリフがそれでした。

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