第84話「少女の墓」
「お前ら無事に逃げてたんだな。いやー、よかったよかった」
そう言ってオレは自分の足元でじゃれつく魔物たちを撫で回しながらほっと一息つく。
兵士たちはあらかた気絶させるか方々に散っていった。
わざわざ追う必要はないだろうとオレはひとまず無事に合流できた魔物達との親睦を深めていた。
「それにしてもオーガさん、わざわざオレのために助けに来てくれてすみません」
「なに、キョウ殿には借りがあると言ったでしょう。よければ、今回の件がカタをつくまで力を貸しますぞ」
そう言って力強い握手をしてくれるオーガの手を握り返す、その周囲ではオーガの里で育ったバハネロとオレの庭で育ったバハネロが仲良く手をつなぎながらはしゃいでいた。
「ほっほっほ、ではわしは森の奥に帰るとするかの。わしはあくまで森を守るためにしか戦えぬのでな」
「ああ、助かったよ! じいさん!」
そう言って森の奥へと帰っていくエントを見送りながらオレは今後の方針を考える。
さて、まずはどうするか。
軽い戦力ならこれで揃った。が、リリィ達を取り戻すために帝国に行くにはまだ戦力は不十分であろう。
ならば、まずは戦力を整える。そのためにも行くべきは――
「お兄ちゃん、誰かこっちに来てるみたい」
ヘルのその声にオレは思考を一時中断し、こちらへ向かってきているという兵士へ視線を移す。
その人物は敵対する様子はなく、腰に差していた剣を手で持ち降伏のポーズを行いながらこちらゆっくりと歩み寄る。
一応の警戒はとかず、オレの周囲の魔物たちも警戒の声を出しているが、その人物がある程度の距離まで近づくと歩を止める。
「安心してくれ。敵対の意思はない」
そう言ってかぶっていた兜を脱ぎ捨て、その下から男の素顔があらわとなる。
「久しぶりだな、キョウ君」
……えーと、どちら様でしょうか?
お会いしたことありましたっけ?
そんなことをグルグル考えていると向こうの方から咳払いをして名乗りをあげてくれた。
「街の衛兵隊長のクロガネだ。君にはリリィの兄といったほうがわかりやすいだろう」
「あ! 噴水の兵士さん!」
覚えてる人なんてまずいないだろうが、いた。確かにいたよ、リリィのお兄さん。
もう出てこないかなと思ってたら出てきましたか。
と、そんなメタなことを考えているとクロガネと名乗った兵士はキョロキョロと周りを見渡し尋ねる。
「……リリィはいないのか?」
「あ、はい、あいつは帝王勇者の元に……」
オレは尋ねるクロガネさんにこれまでのことをかいつまんで説明した。
それを聞いたクロガネさんはなにやら神妙な表情で悩んでいるようであった。
「大丈夫です、クロガネさん。リリィはオレ達の手で必ず取り戻しますから――」
「ちょっと来てくれ」
言ってクロガネさんはオレの手を取り、森の奥へと連れ行ってるがなんですか、この流れ?!
後ろの方ではヘルが「きゃー! お、お兄ちゃんがそっちの道にー?! きゃー!!」とか騒いでるし、一応オレの身を心配してか周囲の魔物やヒュドラなども一緒についてきてくれているので心配はないと思うが。
しばらく森の奥を進むとそこは先程より狭いが、やや拓けた場所に出た。
その場所の中央にひとつの墓があった。
「? これは?」
墓は丁寧に埋葬してあり、そこに立て掛けられた木の十字架もいつも手入れをされているのか綺麗に整っており、なにより備えてある花も最近備えられたものだと分かる。
その墓の前でしばらく沈黙を保っていたクロガネさんが、不意に口を開く。
「これは、リリィの墓だ」
「え?」
それは信じられない台詞であった。
いや、理解ができない台詞だ。
リリィの墓? なにを言って? だってリリィは生きているわけで死んでるはずが? 一体どういう?
そう、混乱するオレにクロガネさんは振り返り真摯な瞳を向ける。
「……今の君になら話してもいいかもしれない。リリィのことを」
そこにはなにか後悔と苦悩、そして謝罪するかのような意思が感じられた。
「頼む――リリィを、助けてやってくれ」
そう言ってクロガネさんは頭を下げ、オレにリリィの全てを打ち明けた――。
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