第174話「過去と現在と」
「初めまして、キョウといいます」
「ロックです!」
「ほっほっほっ、なるほど。二人共よい名じゃな」
そう言って笑う老人ガリオンさんは、次にオレの胸ポケットに注目する。
「して、そちらのポケットに入っておるお嬢さんの名前はなんというのかの?」
「!」
この人、ドラちゃんの存在に気づいている。
驚くオレであったが、ここで隠したところで意味はないと思い、胸のポケットに隠れているドラちゃんに合図を送り、ひょこりと顔を見せる。
「は、はじめまして。マンドラゴラのドラちゃんって言います……よ、よろしくお願いします……」
「ほお、マンドラゴラとは驚いたな」
「! キョウ。マンドラゴラと一緒に旅してるの!」
「え、ええ、まあ」
驚く二人をよそにオレは乾いた笑いをする。
さすがに栽培したとは言えないよなーと思うオレをよそにガリオンさんは更に興味深そうにオレに近づく。
「ふむ。ひょっとして君は魔物を従える能力を持っているのかな?」
「ま、まあ、似たようなものです」
「ほお、それは実に興味深い」
そう言って笑顔を浮かべるガリオンさん。
一方のルーナも興味深そうにオレの胸ポケットにいるドラちゃんに挨拶をする。
「初めまして! 僕、ルーナ。よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします……」
差し出されたルーナの指先を握るドラちゃん。
ルーナは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
その後、軽い話をして、オレがここに泊まることはガリオンさんも承諾してくれた。
というよりも部屋はたくさん余っているので自由に使っていいとかなり太っ腹な人であった。
ひとまずガリオンさんにお礼を告げ、オレ達はその場を後にした。
◇ ◇ ◇
「それじゃあ、ここがキョウ達の部屋だから、何かあったらいつでも僕を呼んでいいからねー」
「ああ。何から何まで悪いな、ルーナ」
「気にしないでよ。困ってる人を助けるのは勇者の使命だから」
「ルーナおねえちゃん! またね!」
「うん。また明日ね、ロックちゃん」
オレ達を部屋に案内してくれたルーナはそう言って部屋から退出した。
しかし、どうしたものだろうか。
オレは思わず真っ白い整備された部屋にあるベッドの上で仰向けになる。
「…………」
真っ白な天井を見ながら、オレはこれまでのことを振り返る。
あのフレースヴェルグとして覚醒した“ルーナ”の手によってオレ達はどこかへと飛ばされた。
その時の奇妙な感覚。
今にして思えばそれはオヤジの世界を渡る能力に似ていた。
だが、あの時のルーナの放った力は明らかにそれよりも強力であった。
まるで時間を歪めるかのような感覚。
そして、次に目覚めたのは砂漠の大陸。
そこは以前オレが行ったアラビアルに酷似した砂漠であった。
しかし、そこではロックの空間転移の能力が使えなかった。
いや、正確にはロックが目標とする場所。
その村、国が存在しないとロックが言っていた。
更にオレ達の前に突如現れた謎の少女ルーナ。
オレ達の知るルーナとは全く別人の少女。
極めつけはここ――魔導国イシタル。
滅ぼさったと言われる古代の文明都市である。
これらのことをまとめると紡ぎ出される答えは一つ。即ち――
「……過去に飛ばされたってことか」
それ以外の答えが見つからない。
他にも色んな可能性はあるのだろうが、おそらく現状そう考えるのがしっくりくる。
しかし、だからといってそれが分かったところで、どうしようもない。
ここが過去だというのなら未来に戻るしかオレやロックがリリィやあのルーナと再会することは不可能。
いや、だからこそルーナはオレ達をここに飛ばしたと言える。
これでもうオレ達がルーナの邪魔をすることは不可能。
仮に地球など、別の世界に飛ばしたのであれば、似た能力を持つオヤジがオレ達を探して迎えに来ることができるかも知れない。
しかし、過去となるとこれは難しい。
ある意味、オレ達は究極の詰みの状態に追い込まれたとも言える。
「……とは言え、何もせず諦めるってのはしたくないよな」
そう呟き、オレは上体を起こす。
幸い、全く策がないわけではない。
オレが訪れたこの国イシタルは今まで見た国の中でもっとも技術が進み、進化した国と言える。
その文明技術はオレのいた地球をも上回っているかもしれない。
少なくとも魔法や魔導などの技術は地球にはないわけだし。
つまり、その文明の力を借りれば、オレの今のこの状態を打開する手段もあるかもしれない。
それになにより、この時代で出会ったもうひとりのルーナ。
彼女と、オレが知るルーナには何かの繋がりがあるのでは?
その謎を解くことも、現状打開のヒントになるのでは。
様々な可能性、憶測が交差する現状だが、色々と試してみる価値はある。
とりあえず、明日からはルーナについて色々聞いて、出来ればこの国に住めるようにしてもらおう。
そして、あのガリオンさんって人の力を借りれるようになるまで信頼を築く。
まずはそこからだ。
なーに、この異世界に来てからいつもやってるようなことさ。
必要とあれば、オレの魔物栽培のスキルで貢献をしよう。
そう思い、ひとまずの目標と現状の整理をつけたところで、オレは隣で飛び跳ねて疲れたまま眠るロックを横目に静かにまぶたを閉じるのであった。
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