第145話「隠された遺跡」
「ここが古代文明イシタルの遺跡か……」
あれからオレ達は地平線の先に見えていた遺跡を目指してコブダを走らせた。
それから数時間を経て、今オレ達はその遺跡の前に立っていた。
「けど、これ遺跡っていうよりはほとんど廃墟みたいなものね」
隣でボソリと呟いたリリィのセリフにオレは静かに頷く。
確かに。遺跡と聞けばもっとしっかりとした建造物が残っていると期待した。
が、ここにあるのは文字通りの廃墟であり、瓦礫の山。
かつては巨大な建物だったものが砂に埋もれ、天井部分が地面から生えているものばかり。
その他にも瓦礫や半壊した建造物があちらこちらに見えるが、どれも形を残しているものは全くと言っていいほどなかった。
「古代文明イシタル……。私もおとぎ話などでは聞いたことがありますが、まさかこれほどまでに見る影もなくなっているとは思いませんでしたわ……」
「フィティスもイシタルのことは知っているのか?」
「はい。と言っても私が聞いたのは伝承のような話ばかりで実際にどうだったのかは分かりません。話によればイシタルはこの世界が始まってから最も進化した文明であったと聞きます」
「進化した……」
「今現在の私達の技術よりも上の技術を有していたと聞きます。空を飛ぶ乗り物に、海を潜る乗り物。その他にも様々な文明発達の道具が存在したと聞きます」
そいつはすごいな。こっちの世界に来てから乗り物と言えば魔物や馬車と言った中世を思わせる乗り物ばかり。
空を飛ぶ乗り物なんて、かなり進んだ文明だったんじゃないのか?
実際、地球でも空を飛ぶ乗り物なんてものは相当文明が発達してから出来たものだったし。
「ですが、そんな発達した文明も一夜で滅んだと聞いております」
「アタシもそれは聞いたわ。滅ぼしたのは確か――」
「当時の魔王フレースヴェルグ、か」
それは以前アリーシャから聞いた話でもあった。
古代文明イシタル。その高度に発達した文明は一夜にして滅んだと言う。
それを滅ぼしたのは当時の魔王フレースヴェルグと呼ばれる存在。
そいつがどんな魔物だったのかは分からないが、文明を一夜で滅ぼしたのならば、その危険度はオレが知る魔物とは完全に逸脱したレベルなんだろう。
それこそ、母さん達SSランクよりも上ではないのか? そう言った不安すらよぎる。
「まあ、なんにしても今は廃墟しか残ってないってことね」
リリィの言うとおり、今ここにあるのは遺跡というよりも残骸に過ぎない。
何かを調べようにもその何かすらない状態であった。
「仮に何か遺跡が残っていたとしても、すでに多くの冒険者達がここへ訪れて、かつて滅んだ文明の財産を奪っていったはずです。今更何かが残っていることもないでしょう……」
「確かにな……」
フィティスの言うとおり、何かが残っていたとしてもすでに数多くの冒険者がここへ訪れてそれを持ち帰ったはず。
オレ達がここへ来たところで何かが残っているはずがない。
だが、この場所から感じる何かがオレの胸を未だざわめかせている。
ここにはそうした遺産以外の何かが残っていると。
「ぱぱー!」
そして、それはロックも同じだったようで、何かを見つけたのか大きく飛び跳ねていた。
「ロック、どうしたー?」
「ここ、なにかあるみたいー!」
ロックのその声に導かれるようにオレ達はロックのいたその場所に集まる。
見るとそこは遺跡のあった場所から少し離れた砂地で何かがあるとは思えなかった。
「ここがどうしたんだい、ロック?」
問いかけるオレにロックは足元の砂に手を突っ込む。すると――
「うお!」
ロックが手を突っ込んだその地面はズブズブとロックの手を飲み込んでいき、そのままロックは砂の中に潜るように消えていった。
「へ?!」
「ちょっ、今のって……?!」
困惑するオレ達であったがすぐさまフィティスが何かに気づいたように呟く。
「隠し道……というよりも砂地獄を応用したカモフラージュ、でしょうか?」
砂地獄。いわゆる蟻地獄のあれか。
ということはこの下に何かが?
「いや、どっちにしてもロックを放っておくことは出来ない。すぐに助けに行こう」
「そうね」
オレのその意見には皆、賛成のようであり、すぐさまロックが飲み込まれたその場所へと飛び込む。
すると、先ほどまで平面だった地面がまるで底なし沼のようにオレ達を飲み込んでいき、次の瞬間、ズボッと砂の中に入り込む感覚を味わう。
次いで訪れたのは空中に放り出される感覚。そのままオレ達はすぐ下にあった地面へと落ちていく。
「うおっと、意外と足元近かったな」
それほどの高さがあったわけではなかったので足へのダメージはほとんどなかった。
が、それよりも驚いたのは目の前の光景であった。
「こいつは――」
そこにあったのは地中に隠された無数の遺跡。
文字通りの地下帝国の姿であった。
見るといくつかの遺跡は地上にあった遺跡と同じように半壊、崩壊したものも多いが、中にはほぼ無傷なままこの地中に隠れ潜んでいたものもあった。
「これは……すごいわね。上にあった遺跡は文字通り見せかけってことね。大部分はこの地下に隠されたってこと……」
それは長い年月の砂嵐によって地下へと隠れされたのか、あるいはこの文明自体が滅ぼされる寸前地下へと逃げたのか、そのどちらかであろう。
「ぱぱ、あれ!」
そんなことを考えていると、一足早くこの地下に入っていたロックがある一つの遺跡を指差す。
そこは他の遺跡に比べ外装のほとんどが無傷であり、他の遺跡や建物よりもはるかに巨大で大きな建造物。
言ってしまえば城のような建物が存在していた。
「……あそこ、なのか?」
問いかけるオレにロックは静かに震える肩を抑えながら頷く。
本当はロックに確認するまでもなく、あの建物を見た瞬間、何故だか体が震えるのを感じた。
それはオレの本能が、あそこに何かがあると気づいたからだ。
そして、それこそがオレがこの場所に導かれた要因に他ならない。
そう感じたオレは震える体をしっかりと支えるように頬を軽く叩き、周りにいる仲間たちの顔をもう一度見渡す。
その表情は皆、言うまでもなく覚悟を決め、オレについていくといった表情であった。
「――よし、それじゃあ、皆。あの中心の建物の中を探索しよう」
「了解よ!」
「任せてください、キョウ様」
「任せな、兄ちゃん」
「うん!」
それぞれの返答を聞き、オレは仲間達とその遺跡を目指した。
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