第146話「遺跡での出会い」
「こりゃまた中もすごいな……」
遺跡の中に入るとそこにあったのは広大な通路と空間。
そして壁や天井には美しい装飾の数々。
古ぼけ、一部は崩れかかっているものの、当時の美しさが垣間見えるほどしっかりとした作りであった。
「確かに、これはすごいわね」
「部屋の隅にあった装飾品や武器なども、現在の技術と比べても見劣りしないどころか、こちらのほうが品質が上のような気すらしますわ」
リリィもフィティスも遺跡の中にあった光景に驚き、口を開いている。
通路を歩くたび、いくつかの部屋を覗いてみたが、そこには武器や防具、装飾品の他にも美術品など明らかに価値のあるものが砂やホコリをかぶったまま放置されていた。
それを見るたび、リリィもフィティスも軽く興奮した様子を見せた。
まあ、こういう未発掘の遺跡なんてのは冒険者や勇者からしてみればワクワクの宝庫だろう。
かくいうオレもそうした宝を見るたびにワクワクしている。
が、今のオレの目的は宝ではない。
「ぱぱ、こっち!」
そんな時折足を止めるオレ達を先導するようにロックが歩き出す。
ロックに置いていかれないようにオレ達はやや早足で遺跡の奥を目指していく。
どうやら、オレよりもロックの方がこの遺跡の奥にある何かに惹かれているようだ。
その証拠に段々とロックの歩幅が早まり、気づくと迷いなく一心に遺跡の奥を目指し走り出していた。
「ロックちゃん、今までになく真剣ね……」
そんなロックの雰囲気にリリィも思わずそう呟く。
確かに。それほどこの奥にある何かが気になるということなのだろうか?
そう思いながら地下への階段を下ると、そこには巨大な扉が現れた。
「こいつは……」
「どうやらここが最深部みたいね」
リリィのその言葉に頷くようにオレは扉の前に立つロックを下がらせ扉を開こうと押すがビクともしない。
「キョウ、下がって。アタシがやるわ」
と、今度はオレに代わってリリィが扉に手をかける。
彼女が両手に力を込めると同時に扉がゆっくりと音を立て開いていく。
おお、さすがは七大勇者。というかやっぱり筋力に関してはずば抜けてるんだな。
「はい、開いたわよ。……ってアンタ、何か失礼なこと考えてない?」
「い、いえ、別に」
オレの考えを読み取ったのかジト目でリリィが睨んでくる。
まあ、それはさておき、オレ達はすぐさま開かれた扉の向こうへと入っていく。
そこにあったのはオレ達の想像を超えた光景であった。
「こいつは……」
「すごい……なにこれ……」
そこは大広間のような空間であり、だだっ広い空間全てが水晶で出来ていた。
床や天井、柱に至るまで、まるで氷のように美しい結晶であり、しかし寒さは一切感じず、むしろわずかな光で多彩な色合いに代わる水晶の空間はまさにオーロラを閉じ込めたように美しかった。
「これって……なんかの鉱石か」
少なくともオレの知る鉱石ではないことは確実であり、恐らくはこの世界特有の鉱石なのだろうと床や柱に手を置いていると、背後にいたフィティスが口を開く。
「これはおそらく封晶石ではないでしょうか?」
「封晶石?」
「魔物の力を封じる石と言われています。ですが、これは古代の遺産と言われ、ほとんど見つかっていないと聞きます。それがこれだけ大量に……もしかしたらイシタル文明がこの石を生み出したのかもしれません」
なるほど。RPGなんかでよくある魔物を弱体化させるアイテムみたいなものか。
よく見ると、リリィやロック、ジャックと言った面々がどうにも居心地悪そうに顔を歪めている。
あまりここに長くいるべきではないか。そう思った瞬間――
「……ぱぱ、あれ」
ロックがオレの服の袖を引っ張り、部屋の奥にある一際大きな水晶の結晶を指差す。
他よりも明らかに巨大なそれを目にした瞬間、何故だかオレはそれに惹かれるように近づく。
そして、水晶に近づくと、その中に存在する何かを確認する。
「これって……!」
そこにあったのは人影――水晶の中には誰かが入っていた。
「おい! リリィ、フィティス! 大変だ! この水晶の中、誰かが入ってるぞ!!」
「えっ?!」
「本当ですの?! キョウ様!!」
オレの叫びに驚いたようにリリィ達がすぐさま近づき、水晶の中に入っている人影を確認するや、信じられないと言った声を漏らす。
「これ……本当に人なら出してあげた方がいいんじゃないの……?」
「確かにそうですわね……」
リリィとフィティスの呟きにはオレも同意する。
とは言え、これほどの巨大な水晶の塊をどうやって壊すか。
魔物の力を封じるんじゃリリィ達では手が出せそうにないし、やっぱりここはフィティスに頼むしかないか、と思いながらオレがその水晶に触れた瞬間。
“――ピキッ――”
水晶が僅かに光輝いたかと思うとオレが触れた場所を中心に亀裂が入るのが見える。
慌てて手を離すが、すぐさま亀裂は水晶全体を覆い出し、水晶そのものが僅かに振動し始めた。
「ちょ、キョウ! あ、アンタ、何やったのよ?!」
「なな、なにもしてねーよ! この通り、ただ触れただけでいきなり水晶が光って、それでヒビが……!」
リリィの抗議に対応しているうちに亀裂は水晶全体を覆い、次の瞬間、水晶が一際明るく輝いたかと思うと、まるで内部からの圧力に耐え切れなくなったように砕け散った。
「……ッ!」
その明るさと水晶が砕けた衝撃にオレ達全員、目を覆うように腕でガードするが、やがて光も振動も収まったのを確認すると腕を下ろし、改めて目の前を確認する。
「…………」
そこに映ったのは銀色の髪と褐色の肌を持つ一人の少女。
スラリとした体は華奢なイメージを与えるが、それは同時に儚くも美しい印象を与え、まさにこの世のものとは思えない妖精や天使のような存在を彷彿させた。
そのあまりの絶世の美しさにオレだけではなく、この場にいた全員が息を呑み、言葉を失っていた。
そうして、水晶から出た少女の瞳が開かれるとその視線はオレと交わる。
瞳の色は真っ赤なルビー。
血のような赤だが、それはどこか夕日のような美しさも秘めており、一目見つめられた瞬間、まるで魔法でもかけられたようにその視線を外せずにいた。
というよりも、少女の姿を見た瞬間、オレは彼女をどこかで見たような気すらした。
これほど美しく、ともすれば神々しい魅力を放つ女性と会ったことがあるのかと、そんな自問をしていると少女はその唇に微笑みを浮かべた。
「――キョウ」
「え?」
なぜかその少女はオレの名を呼んだ。
初対面……だよな? とかそんなことを思っているとこちらに近づき、倒れそうになる彼女を慌てて抱きとめる。その瞬間――
「――――」
少女が何かを呟いたような気がした。
だが、それを認識するよりもさらに衝撃的な出来事がオレを襲う。
抱きとめると同時に少女が自らの唇をオレへと重ねた。
「?!!」
そのあまりの衝撃的すぎる行動に固まるオレ。
そして、それは周りの皆も同じだったようでものすごい表情でこちらを見て固まっている。
少女はすぐにオレから唇は離すと同時に気を失うが、それよりも早くリリィがオレの肩を掴む。
「ちちちち、ちょっとキョウー! あ、アアアンタ! な、ななな何してんのよー!!」
「い、いやいや! 何してるも何も、何されと言いますか……!」
「うううう、うるさーい! 言い訳してるんじゃないわよー!!」
「き、キョウ様、わ、私という人がいながら、そんな初対面の女性と……!」
「ご、誤解だって!」
騒ぐ皆に気を取られ、この時のオレは気づいていなかった。
オレの腕の中に抱かれた少女の瞳から一粒の涙がこぼれていたことに――。
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