第13話「スローライフだと思ったか?残念だったな!イベントの時間だぜ!」

というわけでなんだかんだで魔物の栽培も順調です。


最近ではマッシュタケというキノコ型の魔物栽培にハマっています。

このマッシュタケいわゆる動物やほかの魔物の死骸によって自然と発生する魔物なんだが、その種類が実に多種多様。場所や発生する死骸によって同じマッシュタケでも全く違うものが現れる。


一番ポピュラーと言われるのがこの地方の腐った樹木に育つマッシュイタケ。まあ、椎茸だ。でかさは人間の赤ちゃんくらいで大きくなれば子供くらいのサイズになるけど。

他にはウルフなどの魔物を媒介に育ったタマゴタケ。

洞窟などの特に湿った場所で育ったものはキクラタケといい、色や形、大きさ、味だって変わってくる。

個人的には魔物を媒介に育ったタマゴタケがかなり美味しかった。

見た目はまんま卵そのもので人の頭くらいのサイズなんだが、焼いただけでもかなり美味しかった。


そんな感じで現在、いろんな環境下でどんなマッシュタケが育つのか研究中だ。もしかしたら、地球でも有名なあのキノコを栽培できるかもしれないからな。

と、そんな風に小屋の周りが軽くマッシュタケ祭りになって、成長しすぎたマッシュタケがわらわらと闊歩している中、珍客が現れる。


「あの、キョウさん、いまよろしいでしょうか?」


「あれ、ミナちゃんじゃん。わざわざこっちに来るなんて、どうしたんだい?」


そう、うちの取引先でもあり、ほぼ毎日と言っていいほどその料理のお世話になっている食堂屋の料理人少女ミナちゃんだ。


「実はキョウさんに折り入って頼みがあるのですが」


「ん? オレでできることならいいけど」


「はい、あの、来月の太陽の日……わ、私と……」


お、お、おお?! こ、これはもしかしてデートフラグ?!


「私と、食堂コンテストに出てもらえませんか!」


まあ、違うよねー。


「食堂コンテスト?」


「はい、実は年に一度この街で一番の食堂屋を決める大会があるんです。それに優勝した食堂屋は中央大陸アガストラで行われる料理界の頂点、大料理大会に出場できるんです」


あー、なるほど。大体話はわかった。要するにあれでしょう?

料理物でよくある全国大会に出場するための地方大会が来月の太陽の日に行われるっぽい。

それに優勝するためにオレの力を貸して欲しいってことか。


「別にいいけど、知ってのとおりオレは料理全然できないよ? それでもいいの?」


「はい、構いません。料理を作るのは私の役目ですから。それにキョウさんの役目はちゃんと別にありますよ」


「というと?」


「食材です!」


ドヤっと可愛いガッツポーズを向ける。

なるほど。そういうことか。


「料理の出来は料理人の腕によって差がつきます。ですが、それ以上に料理に使う素材、これが最も大きな差をもたらすと私は考えています。そして私の知る中でキョウさん以上に素晴らしい食材を作れる人を私は知りません!」


と料理のこととなるとちょっと熱く語り始めるミナちゃん。


「新鮮さもさることながら、他の食材とは異なる独特の風味がキョウさんの素材にはすでにあるんです! 私が知る限りキョウさんほど魔物の栽培に成功している人は他にいません!」


おおう、この異世界にきて初めてここまでよいしょされて、小っ恥ずかしいのもあるが、正直かなり嬉しい!

育ててるのは全部魔物だが! これも立派に役に立ってたんだな!


「オーケー任せておきな! ミナちゃん! 君のためにも最高の素材を育ててみせるよ!」


「本当ですか?! ありがとうございます、キョウさん!」


満面の笑顔をこちらに向ける純朴な少女。可愛い。


「ところで出場するのはこの街の食堂屋全部になるのかな?」


「そうですね。皆さん中央大陸での大会に出るのが目的ですから。中央大陸の大会に出たというだけでも料理人としては最高の称号で、それだけでほかの大陸からわざわざ足を運ぶお客さんもいますから」


「へえ、ってことは去年もここから大陸の大会に出た食堂屋もいるんだよね?」


「はい、表通りのジョンフレストランのオーナーさんです」


ああ、最初にオレが入ってたたき出されたあの店か。やっぱそれなりの食堂屋だったってことか。


「オーナーのジョンフさんも料理人としては超一流で、去年の実績のおかげで資金も溜まり、今では高レベル冒険者が獲ってきた高級素材をたくさん仕入れているそうです。今年の優勝候補ナンバー1ですね」


「なるほど、確かに手ごわそうだけど、面白そうじゃないか」


ここ最近はマジでスローライフで、それはそれで安定してて文句はなかったけれど刺激が少し足りなかった。

やはり異世界に来たのなら、それなりの刺激や冒険は必要だろう。あ、もちろん死なない程度で。

となると、今回のこのイベント乗らない理由はないぜ。


「任せな、ミナちゃん! 相手さんの高級素材に劣らない優秀な素材、いや、こっちも自家製の高級素材を必ず来月の太陽の日まで育ててやるからよ!」


自信はある。ちょうど今、栽培中のマッシュタケ。

こいつらの栽培種類も大体わかってきて、いよいよ次はあれの栽培に取り掛かろうと思っていたところだ。

そいつが成功すれば、文字通り高級素材の栽培も夢じゃない。

ふっふっふ、ジョンフのオッサン。アンタにはそれほど恨みはないし、むしろあれはオレの自業自得だったが、最初の相手がアンタというのはある意味、運命を感じるぜ。

見せてやるぜ、成長したこのオレの力を!

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