第12話「コカトリスを育てよう」

詰んだ。今度こそ心底そう思った。


その日、いつもと変わらずオレはボロ小屋の庭にて農作業に勤しんでいた。

まあ、育ててるものは全部魔物だし、ここ最近は収穫時期さえ間違えなければジャック・オー・ランタンや、デビルキャロットといった人参型の魔物も豊作だ。

ちなみにこのデビルキャロット。抜くと人参に手足が生えててバタバタ動く。ちょっと可愛い。

リリィいわく生まれたてはそれほど凶暴ではなく危険度も少ないので新米冒険者の相手にいいと言っていた。

あと最初に失敗したキラープラントも育ててるが、こいつらが地味に厄介。

やっぱり成長するとこっち襲って来るし、それでなくとも隣のかぼちゃに喧嘩売る。

ひどい時なんかかぼちゃとプラントの喧嘩で畑が荒れた。

とまあ、そんな感じでいつものように畑仕事に精を出していた時だった。


「貴殿だな。最近ここで魔物を栽培している人物というのは?」


なんか複数の兵士達に取り囲まれた。


「ちょっと来てもらおう。我が街の領主殿がお呼びだ」


あれ、これ詰んだんじゃね、と思った。






「ようこそ。まあ、あまり緊張せずそちらのある椅子にでも座って欲しい」


そう言ってオレの前にテーブルをはさんで座っているのはこの街の領主らしき男性。

詳しい年齢は外見だけでは分からないが恐らく20代後半か30代前半くらいか?意外と若い。


「今日、君を呼んだのは君が行っている魔物の栽培について話があるんだ」


来たよ。やばいよ。これ絶対、君がやってることは法に反してるとかで処罰されるパターンや。

それでなくともこの街から追い出されそう。どうしよう。


「実は君に折り入って頼みがある。コカトリスを卵を産むよう調教できないだろうか?」


「はい?」


思わず素で聞き返してしまった。コカ……なんだって?


「実は先日、コカトリスを捕らえたのだが、そのコカトリスが卵を産まなくて困っている。通常、コカトリスの卵というのは連中の巣から奪ってくるのが基本だ。だが、最近は我が地方でのコカトリスが数が減ってきている。そうなると自然卵の数も減ってくる。

そこで魔物を栽培している君になら、このコカトリスも卵を産むようにしてもらえるんじゃないかと思ってね」


「えーと、捕まえてきたのなら放っておけば自然と卵産むんじゃないんですか?」


「いやいや、そういうわけでもないのだよ。なぜかコカトリスは人間に捕らわれると途端に卵を産まなくなる。その後、こちらが差し出す餌も食べずにそのまま餓死してしまうんだ」


へえー、そうだったんだ。敵に囚われて辱めを受けるくらいなら死を選ぶってやつ?

あの鶏の魔物ってそんなに誇り高い魔物だったの?


「というわけでなんとかできないだろうか?コカトリスの卵を生産できるとなれば我が地方にとって大きな利益となる。無論、成功すれば君にもそれなりの報酬は支払おう」


「なるほど。ちなみに断ったら?」


「おや、そんなことを私に言わせるのかい?」


腹黒という文字が見えるほどのどす黒い笑みをこちらに浮かべた。

うん、受ける以外の選択肢はないね。






とまあ、そんな感じでコカトリスと、これを育成させるための資金をいくつかもらった。やったね!

卵を産ませるだけなんて、これまでの魔物栽培に比べれば楽勝でしょう!

ちなみに出来なかった場合の想像は怖いので考えないでおく。


しかし、改めて引き取ってきたコカトリスを見ると外見はまんま地球にいる鶏だな。

ただしっぽに蛇がくっついていて、檻越しから威嚇されてますが。


「ご主人様、この子どうしたんですか?」


と、オレが帰ってくると昼寝から覚めたのか土の中からズボっと現れたドラちゃんがオレの肩に飛びついて聞いてくる。


「色々あってここで育てることになった。卵を産ませればオレの勝ちだ」


結構省略してるが、要点さえ押さえれば問題ない。ドラちゃんもオレの肩の上で「なるほどー」と納得している。


「というわけでまずは餌付けだ。食え、鶏よ」


と鶏の前にうちで育てた野菜という名の魔物を並べる。あれ、そういえば鶏って大豆を食べるんだっけ?大豆系の魔物っていたっけ?

と檻の前に野菜を並べるも見事にシカト。うーむ、こいつは思ったよりも手ごわいかもしれん。






というわけであれから二日。街に繰り出して大豆っぽいものを買ってきて与えたもののまるで見向きもしなかった。そのほかにも鶏というか鳥が食べそうなものを与えたんだが、どれもダメ。

仕方ないのでリリィと一緒に近くの洞窟に入って巨大ミミズまで倒して与えたのにこれもダメだった。

あ、ちなみに人生二回目のダンジョン。前回と同じく死ぬかと思った。なおやはり役には立たなかった模様。


「諦めた方がいいんじゃない。コカトリスって人間に捕らわれるとそのまま名誉の死を選ぶ誇り高い種族らしいわよ」


「あー、やっぱりかい」


とは言うものの本当に困った。一応水は飲んでくれるんだが、餌を食べてくれない。

多分そのせいで栄養が足りず卵も産めないのだと思う。逆に言えばこの子が何かを食べてくれればそれで卵も産んでくれると思うので、要は餌付けに全てがかかっているんだ。


「……外に出すか」


「ち、ちょっとアンタ、本気なの?」


「これも信頼関係を築いて距離を縮めるためだ!よく考えればどの世界に檻に閉じ込められたまま好感度が上がる人物がいる?まずは自由にしてそれからスキンシップが常識だろう!」


「自由にした途端、アンタ噛まれるわよ」


ごもっとも。だが、こうなっては他に案もない。

いざとなったらリリィもいるし、なんとかなるだろうというダメ思考だがやるしかあるまい。

そうしてそっと檻の扉を開け自由にするコカトリス。

檻から出たコカトリスはトボトボと外に出てうちの庭をじっと見つめる。

うむ、心なしかやはり衰弱している気がする。本体の鶏も最初に見たときよりも明らかに元気がないし、今ではほとんど叫ばなくなった。

見ると尻尾の蛇なんかぐたーっとしてる。というかこれ蛇の方がヤバくないか?明らかに弱ってる様子だし、そのせいで鶏の部分も……。


「んん?!」


今、ちょっとある可能性に気づいてしまった。まさかこいつ。

いや、試してみる価値はある。

オレは急いでリリィと一緒にあるものを取るべく、再び洞窟へと赴く。

ちなみに留守番と鶏の管理はドラちゃんとジャックに任せた。






「し、信じられない……た、食べてる……」


今、目の前でオレ達が獲ってきた餌をガツガツと食べているコカトリスを見て、リリィが信じられないと言った表情で見ている。

うん、分かるぞ。その顔には二つの驚きがあることを。

一つは無論、このコカトリスが人間から与えられた餌を食べていること。

そして、もう一つは。


「なんてことはない。コカトリスは別に誇り高い魔物ってわけじゃなかったんだ。ただ、オレ達がこれまで餌をやっていたのがこいつの“尻尾”の方で、しかも餌の種類がまるで違っていたからなんだよ」


そう、今コカトリスが食べているのはベビーラットというネズミ型の魔物。

そしてそれをガツガツというより一口で飲み込んでいってるコカトリスの蛇の部分。


そう、鶏型の魔物と思われていたこのコカトリス。本体はどうやら蛇の方だったみたいだ。

そして、蛇の主食はご存知ネズミ。そりゃ、いくら鶏が食べそうな食材与えられても食べるわけはないよなー、本体が蛇なら。


そんなこんなで無事にこちらの調達した餌を丸呑みしてくれたコカトリス。それに満足したのかありがとうとばかりに鳴き声をあげる。

うん?こいつ意外と餌付けすればちゃんと懐くんじゃね?

ともかくこれで明日の朝には卵を産んでくれるかもと期待を膨らませる。






結論。雄でした。それ以前の問題でした。

おい、領主様、それくらいちゃんと確認してくれよ。

なお、その後すぐにメスのコカトリスが連れられて来て無事卵を産んでくれました。

ちなみに雄のコカトリスは美味しくいただきました。

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