第11話「マンドラゴラを育てよう③」

「あの、本当に私を食べないんですか……?」


あれからマンドラゴラの少女、面倒くさいのでドラちゃんと呼ぼう。決して青く丸い奴を連想してはいけない。

ともかくドラちゃんは、庭の端っこでちょこんと体育座りをして土いじりをしているオレをぼーっと見ていたが、本当にオレが何かをする気がないのに気づいたのかだんだんと距離を詰めて最終的には足元をウロウロされた。

危うく踏みそうになって大変だった。その際、空中を浮遊していたジャックの奴と頭がぶつかったがそれはいい。


「本当にそんな気はないよ。というか逆にいまの君を見ると食べる気が起きないって」


今ではなぜか小屋の中で食事をとっているオレの机の向こう側に座ってこちらを見ながらそんな会話を交わしている。


「でも、あなたは私を食べるために育ててくれたんですよね?なのに私は自分が死にたくないからってあなたが育ててくれた恩を仇で返すようなことを……」


ああ、なんていい子なんだ。この子のこの考えが最初に育てたキラープラント共に少しでもあれば。


「いいっていいって、それよりも君もなにか食べるかい?今はかぼちゃ料理しかないけど」


「あ、いえ、私、基本は土と光とあとは少しの水さえあれば十分生きていけますので」


さすがは植物と言ったところか。

とそんな久しぶりに雑談交えながらの楽しい夕食を過ごしていたら


「兄ちゃん」


「なんだよ、ジャック。言っておくけどお前も煮込むつもりはないからな」


「いや、そうじゃねぇ。兄ちゃんこの家、囲まれてるぜ」


そのジャックの発言と同時だった。背中に寒気が走り咄嗟に椅子から立ち上がりドアの方を見る。

その瞬間、ドアを蹴破り複数のガラの悪そうな連中が押し入ってくる。

ってああああ!ただでさえボロかったうちのドアにトドメ刺すなよー!


「よお、兄ちゃん。兄ちゃんが最近巷で噂になってる魔物の栽培師かい?」


え、なにオレすでにそんな有名になってるの?とかそんなことを思ってると連中のひとりがオレの背中に怯えるように引っ付いてるマンドラゴラを発見する。


「兄貴!見つけやしたぜ!確かにマンドラゴラです!あの男の背中に張り付いてやがります!」


「ほお、こいつは驚いた。マジでマンドラゴラの栽培に成功していたのか。しかもそいつ色といい艶といいかなりの極上ものじゃねぇか。こりゃどこで売っても大金が入るぜ」


となにやらゲスイ笑みを浮かべるゴロツキ共。格好を見るに冒険者なんだろうけど、もう言動が完全にゴロツキです。

というかこつらなに勝手にオレが育てたマンドラゴラ横取りしようとしてんだよ。


「おい、兄ちゃんそいつをこっちによこしな。そうすればアンタには何もしない。なんだったら、そいつをよこす代わりにこっちのいくらか金を渡すぜ。どうだ?」


そのゴロツキリーダーの発言に背中越しにビクビクと震えているドラちゃんの恐怖が伝わる。

まあ、普通に考えてここでこいつらの提案を断れば間違いなく連中が持ってる武器がオレ目掛けて飛んでくるわな。

普通ならここでドラちゃんを渡すのが正解だろう。普通なら。


「断る。というか何人様が育てたものを勝手に横取りしようとしてんだ。それ完全に泥棒行為だろう。誰がこの子をお前らなんかに渡すかよ!」


背中越しにドラちゃんが驚いているのがなんとなく感じられる。

そりゃな、今日知り合ったばかりの他人のオレがそこまでするなんて思うはずはないよな。

けど、別に今日知り合ったわけじゃねぇんだよ。

オレはこの子が生まれる前から種の状態からのこの子を知ってる。

地面に植えて、それはそれはもう大事に育てたんだぞ。

マンドラゴラは他よりも成長が遅く、芽が出るのも遅かった。一時期は失敗したかと諦めたが、周りに新しい堆肥植えたり、定期的に水をやって管理もした。周りの雑草抜いたりと、とにかくこの子は本当に手がかかった!

だからその分、この子を育てた時の情は人一倍だし、ちゃんと成熟したときはマジで嬉しかった!

ぶっちゃけかなり感情移入してるとも!だから誰が見ず知らずのお前らなんかに渡すか!


「そうかい、なら残念だ」


とそんなオレの返答を聞いて臨戦態勢を取るゴロツキ共。

オレはとりあえずすぐそばに置いてあった鎌を手に取るが、ぶっちゃけ勝てる気がしない。

レベルが能力に関してはオレはこの世界に飛ばされてから1ポイントも上がってない自信がある!

そんなオレよりも遥か格上で魔物とかもたくさん倒しているだろうゴロツキ集団。

あ、これ今度こそ詰んだな。

そう思いながらも、やるだけはやって隙をついて逃げ出してやると思ったその瞬間。

目の前でニヤついた顔のゴロツキリーダーがその表情のままゆっくりと前のめりに倒れていく。

ホワイ?見ると周りの連中もオレと同じように驚いている。


「もしやと思って来てみたけど、やっぱりそうだったようね」


そこには扉の前に凛と佇むリリィの姿!

リリィ様!ありがとう!リリィ様!来てくれてありがとうございます!

ピンチのヒロインの現場に颯爽と現れるヒーローです!うん、間違ってない。


「てめえ!どこから出てきやがった!」


そんなリリィに対して一斉に襲いかかるゴロツキ共。さすがにあの数相手じゃリリィも不利か?オレも手伝おうかと鎌を持ち直したが。


「いいから三下共はすっこんでなさい」


剣姫一閃。そう言っていい鮮やかな一閃と共にリリィに襲いかかった連中が全員倒れる。

呆気にとられるオレをよそにリリィはどこも怪我していないオレを見てほっとしたように息をつく。


「こいつらはアタシが兵士詰所に連行しておくから、アンタは気にしなくていいわよ。アタシの兄貴に任せればもうこんなこともできないようになるだろうから」


そういえばこいつの兄貴は兵士だったな。それなりに地位があるんだろうか?まあ、任せておけば大丈夫というので、そこのところは深く言及しないが。

去り際、ちらりとこちらを見たリリィがなにやら呟く。


「さっきのアンタの啖呵、外まで聞こえていたけど……ちょっと見直したわよ」


そう言って複数のごろつきを縄で引きずったまま出て行く。さっきの啖呵?

少し考えて思い当たるのはさっきのドラちゃんを渡さないってあれか。

いや、そりゃそうだろう。誰が汗水たらして育てた子を見ず知らずに他人にやるかっての。

と、そこで思い出したかのようにオレは背中に張り付いていたドラちゃんを手に取り、机に座らせる。


しばらくさきほどの騒動で呆然としていたのか、やがて安堵したと思ったら、次の瞬間また泣き出した。


「ってええええ、なんで泣いてるの、ドラちゃん?」


「だ、だって、わた、私なんかのためにキョウさんわざわざ……しかも命をかけてまで私を守ってくれて、それが嬉しくて、でもなにも返せない私が恥ずかしくってそれで……うわ~ん!」


うーん、なにやらいろんな感情がこみ上げて涙が溢れているようだ。

単純に生き残ったことへの嬉しさだけでなく、オレのさっきの行為や、自分自身の不甲斐なさだとかいろんな感情がごっちゃになってるようだ。

というかそんな深く気にしなくてもいいのになー。オレがこの子に愛着持つのは育てた奴のサガというか。

と、そんな風なことを思っていると、ドラちゃんがなにやら必死に涙を拭ってこちらを見上げる。その目には決意という二文字が宿っていた。


「決めました。私、キョウさん、いえご主人様にずっと尽くしていきます!」


「はい?」


「ご主人様が望むなら、わ、私を、食べてもらうのもいいです!この命、思えばご主人様に育てられた身、そしてさきほどの命をかけてまで私を守ってくれた恩、これに報いることができなければ私のマンドラゴラとしての生に意味なんてありません!

ご主人様、ご主人様が望むなら私はなんでもあなたに差し上げます!どうぞ召し上がってください!」


そう言って半日前とはまるで正反対の宣言を行う。

というかその言い方色々と危ないんだが、いや、間違ってはいないし、意味としてもまさしくそのとおりなんだけど。


ともあれ、気づくとオレの異世界生活にはオレを主人と慕うマンドラゴラと、同じく慕ってくるジャック・オー・ランタンがそばに引っ付くこととなりました。


あれ、異世界ハーレムはハーレムだけど、これオレが知ってるハーレムとなんか違う。

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