第10話「マンドラゴラを育てよう②」
リリィ視点
それにしても分かってはいたけど変な奴ね、あいつ。
急に街の丘に現れたかと思ったら魔物を栽培しだして、挙句の果てにちゃっかりうまいこと育ててるし。
普通魔物を育てるってあんなに簡単じゃないんだけどね。もちろん襲われるリスクもあるし、魔物が増える状況にもなるから育てようなんて考える奴は少ないし、それだったら素直に狩りに行った方が早いし。
それに魔物によっては土の体質とかが合わず育たない連中も多い。
一部の地方にしか現れない魔物とかがいるのもその証拠。の割にはあいつ、キラープラント、ジャック・オー・ランタン、マンドラゴラとかなり種類の異なる魔物を育ててるのよね。
ジャック・オー・ランタンも比較的どこでも育ちやすいとは聞いたけど、マンドラゴラとか土の体質が少しでも合わなかったら芽が出ることすらないのにどういうことなのかしら?
まあ、考えてもよくわからないけどあいつが言うように才能なのかしら。
あ、それで思い出した。あいつって時々わけのわからないことを口走るのよね。異世界がどうだとか属性がどうだとかステータスがなんたらとか。
あと極めつけはアタシのことを暴力ヒロインって呼ぶのはやめてほしいわ。
そりゃ最初は確かに襟首掴んでちょっと乱暴振るったけど、アタシは基本的にそんな他人にむやみやたらに手を出したりしないわよ。
あれだって元と言えば、あいつがキラープラント育ててる現場を見ての行動だし。ちゃんと正当性はあるはずよ。
最近はリリィって呼んでくるから別にいいけど。
それにしてもマンドラゴラの件はやっぱりというか想像通りのオチだったわね。
あいつ自覚あるのかどうか知らないけど、意外と甘ちゃんなのよね。
ジャック・オー・ランタンを栽培したときも、ちゃんとアタシに収穫の半分をくれたし。
それにミナの件に関しても、事情を聞いたら相場よりも低い値段で取引に応じてくれたし。
あれ、普通だったらミナのところに持ち込まずどこか他の食堂に持っていけばそれなりの報酬を得られたはずなのに。
なんていうか、この世界の情勢に疎いのもあるんだろうけど、ミナにも良くしてくれてるみたいで、最初の印象とは違ってあいつがいいやつだっていうのはなんとなくわかってきたわ。
少なくとも人助けに関してはしないよりはしたほうがいいと思ってる感じだし。
まあ、そんなこんなで今回のマンドラゴラの件もそれを考えれば当然と言えば当然の結果よね。
けど、あいつあのマンドラゴラあのまま敷地内で飼うのかしら?すでになんかジャックというランタンがいるのに。
「で、その話は本当なんだろうな?」
「ええ、間違いありません。あっしからその種を買い取った小僧がどうにも栽培に成功したらしく」
ん?今なんか通りで聞き捨てならない会話があったような。
思わず足を止める。見るとそこには路上販売している怪しげな商人とそれに話を聞いてるガラの悪そうな冒険者集団がいた。
「マジでマンドラゴラの栽培に成功したのか?」
「ええ、遠目だったんでわかりにくかったですが、マンドラゴラの特徴である青い大輪の花。それが確かに見えました。あれは間違いなく栽培に成功していますよ」
「マンドラゴラと言えばこのあたりじゃ滅多に出没しないタイプの魔物じゃないか。しかも、連中は泣き叫ぶだけの事実上無害で狩り取るのは楽勝。のくせに報酬はバカみたいに高いからな」
「こいつは奪うのに異論はねぇよな」
「へへ、旦那方。この情報はまだあなた達にしか売っていませんから」
「ああ、わかってるぜ。こいつは報酬だ。こっちはそれ以上の金が入るからその程度いくらでも抱えてろ」
「へい、ありがとうございます」
そう言って男たちから金を受け取る商人。
ガラの悪い連中はそのまま街の外れにある丘の方角へと歩いていく。
見るとすでに日も落ちかけて夕暮れ時。連中がキョウのいる小屋へ向かうとするなら恐らく夜。
アタシはゆっくりと振り返り、日暮れに溶け込むように連中の後を気づかれないように追う。
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