第58話「集う魔王四天王」

「とにもかくにも、無事五人の選手が決まって、いよいよ明日が決戦の日だな」


フィティスとカサリナさんの勝負からひと月、遂に明日、魔王城での料理バトルに挑むべく、オレを含む五人の選手達が、ここヴァルキリア王国の王室の一角にて集っていた。


メンバーは無論オレことヒムロ=キョウジ。グルメ勇者フィティス。ミナ食堂屋の店主兼看板娘ミナちゃん。ヴァルキリア王国女帝にして戦勇者のアマネス。そして、オレの親父であるヒムロ=ケイジ。

ほかにもリリィやジャック、ドラちゃんといったメンバーも揃っている。


このひと月、オレを含めた料理バトルの参加者達はそれぞれ料理の腕に磨きをかけ、材料を調達し、あるいは新たな魔物の栽培や改良などに勤しんでいた。

無論、この国の女帝であるアマネスにもフィティスやカサリナさんが付きっきりで料理の指導を行い、今では十分に戦力に数えられる腕にまで成長しているらしい。


「ふふふ、明日の勝負が待ちきれないな。いつでもこの私のクリスタル包丁が唸るぞ」


ブンブンと手に持った包丁をまるでナイフのように扱うアマネス。危ないからやめてください。


「まあ、焦らなくても、もうすぐ先方からの魔王城への招待状が来るだろう。だが、その前にやっておくべきことがある」


「やっておくべきこと?」


アマネスの危ない包丁さばきをスルーしながら親父の言葉に疑問を投げかける。


「組み合わせだよ。5対5のバトルなら誰が先鋒を務めて大将を務めるか。この組み合わせによっては勝敗も大きく変わるってもんだろう。これは今のうちに決めておいたほうが大事だろう」


確かに。親父のその言葉に頷く。

というか、なんで親父が普通に仕切ってんだ? まあ、いいけど。


「でだ。その組み合わせについてだが、オレが独断と偏見で決めることにする」


と思ったが前言撤回! なんでやねんねん!


「まあ落ち着けよ、キョウジ。この中でお前たちの実力を最も客観的に見れるのはこのオレだ。それにな、相手はお前の母さんだぞ? なら、その夫であるオレが誰よりも相手の手の内に詳しいだろう」


む、なるほど。


「おそらく相手もこちらの布陣に対してある程度奇策を含めた組み合わせ順を仕掛けてくるはず。ならば、こちらはそれを読んだ上で組み合わせを決めればいい。幸い四天王の情報についてはそちらの戦勇者からいくつか情報を聞かせてもらったからな」


「ああ、私も戦場で何度か会ったくらいだが、それでもそれぞれの四天王の種族や簡単な能力くらいならば話せる」


いつの間にそんな情報を仕入れていたとは、さすがにいつもちゃらんぽらんしてたわけではないということか。


「とは言え、問題はひとつある」


と、そこで珍しくシリアスな表情を浮かべるアマネス。


「四天王最後の一人についての情報が全くないことだ」


なるほど。彼女のその言葉にオレは静かに頷く。


向こうの四天王最後の一人については情報が全く明かされていない。

現状、不在との情報らしいのだが、もともとその席を埋めていたのが誰だったのか。そしてその後任にあたる人物が誰なのか。その一切が不明である。

とは言え、あの時の母さんには自信に満ちたなにかがあった。

おそらくその最後のメンバーこそが向こうの切り札と思っていいだろう。


だが、たとえ相手がどんな人物であろうとこちらも最善のメンバーを揃えた。

ここに集まってくれた皆のためにも負けるわけにはいかない。


そう決意を新たにした時、窓を叩く音に気が付く。

見るとそこには黒い三つ目のカラスが書状らしきものを咥えて待機していた。


「どうやら向こうさんからの招待状が届いたようだな」


窓を開いてそのカラスから書状を受け取るオレ。

そこには明日の魔王城への入門許可と、料理バトルの時刻が記されていた。


オレは書状に書かれた内容をこの場の全員に伝えるが、誰ひとりとして不安な表情はなく、あるいは決意、あるいは高揚、あるいはいつもどおりと、それぞれ明日への料理バトルへの覚悟を決めていた。






◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆






そこは雪に閉ざされた極寒の山。

本来そこは雪が全くない平凡な山脈であったが、とある魔女がその場所に住み着いたことにより、そこは雪の魔女の山脈と呼ばれるようになる。


この世界における魔女とはすべて大魔女ミラーカの血を受け継ぐ一族。

そして、大魔女ミラーカとは魔王に匹敵する強力な存在であり、魔王が有する魔物を創生する能力すら宿していたとされる。

このため両者の関係は密接であり、一説には親友であったとさえ伝えられている。


魔女、と呼ばれる人種がこの世界で忌避されている理由のひとつはその大魔女ミラーカと魔王との関係にあった。

ゆえに魔女の多くは魔王に与するものと人々より多く認識されている。

無論、そうではない魔女も多く存在したが、そうした偏見によって魔女たちの多くが言われない迫害を受け、辺境の地に追われたのも事実。


この雪の魔女の山脈に住む魔女の家系も元を正せば、そうしたルーツに収まる。

だが、ひとつだけ彼女が他の魔女と違う点を指摘するならば、彼女に関してはそれが言われない事実ではなく、真実であったからである。


「言ったように今回のバトルは料理に関したものであり、あなた様の嫌う争いごととは無縁です」


そこにいたのは魔王四天王のひとり“吸血鬼族”アルカードであった。


「あなた様の祖ミラーカ様と魔王様との盟約に従い、その血を受け継ぐ直系であるあなた様に参加の要請をお願いしてもよろしいですね」


そのアルカードが恭しく頭を垂れる人物。

それは白い髪の全身を白のローブで染め上げた純白の魔女。

彼女の手には、近々魔王城での料理バトルが行われるのでぜひ応援に来て欲しいという彼女の友達からの手紙が握られていた。


「初代四天王のひとりミラーカ様の代役として新たな四天王のひとりとして参加をお願いいたします。雪の魔女イース様」


その魔王直々の命令に対し、雪の魔女イースは静かに頷き、ここに四天王最後のひとりの参加が決定された。

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