第113話「進化フラグ?!」
「着きました。ここが僕の国アラビアルです」
そこは砂漠のオアシスに出来上がった王国。
広い城門をくぐると、外の砂漠とはまるで異なる風景が広がっていた。
あちらこちらに出来た石造りの建物。
中央通りと思われるそこには様々な露店や道行く人々で賑わっていた。
まさに砂漠の中心都市と言っていい光景であった。
「へえ、なかなかいい街じゃないか」
コブダに乗ったまま中央通りを歩き、オレはそう感想を漏らす。
「ありがとうございます。ですが、最近ではやはり魔物の減少によって前よりも食料や加工品が減って生産は落ちているのです。その影響で、外との貿易も最近は苦しくなっています」
見た目にはそれほど街の人達に影響が出ている感じはしなかったが、しかし言われてみればどこか焦って物の売り買いをしている感じはあった。
「なら、一刻も早くどうにかしないとな」
「お願いします、キョウさん。あなただけが頼りです」
今までにない真剣な表情でこちらを振り向くシンにオレは安心させるように笑顔を向ける。
「ここが僕の住んでいる宮殿です」
中央通りを抜けた先、そこにはまさにアラビア風の宮殿が建っており、オレ達は神に案内されるまま、その中へと入る。
敷地に入ると同時にその中の土は他と異なりわずかな自然や芝生が存在し、宮殿の前には小さな湖もあった。
そうして庭を通り抜け、宮殿の扉前まで来ると、シンを初めてして次々とコブダから降り、オレ達もそれに倣うようにコブダより降りる。
「キョウさんと皆さんにはこの宮殿の三階にある部屋を使って頂くことになります。みなさんのお世話はこちらのメイドがいたしますので、すぐにでも部屋を確認したい場合はおっしゃってください」
そう言ってシンが紹介したのはこの砂漠の中、ロングスカートのメイド服を着た女体であり、その人物はオレ達を見ると丁寧にお辞儀をする。
「あ、いや、せっかくだけどシン。オレは部屋の確認はあとでいいよ。それよりも今は――」
そう言ってオレはコブダに乗せていた荷物を下ろし、その中からあるものを取り出す。
「ここでの魔物栽培を開始させてもらうわ」
そう言ってオレが取り出したのは、これまで栽培してきた様々な魔物達の種であった。
「場所はここでいいんですか? キョウさん」
「そうだな。あんまり砂地だと育ちにくいだろうし、逆にこれくらい硬い荒地の方が育つ余地があると思う」
そう言ってオレは荒地でゴテゴテとした岩肌の土を掴みながら、隣で聞いてくるシンに答える。
あれからオレはすぐにシンにこの地に関しての質問をした。
まず魔物が育つには野菜同様、健康的な土が理想である。
が、砂漠の国でそうした贅沢は得られないであろう。
砂漠地帯において得られる場所と言えば、砂地かあるいは乾燥した荒地。
シンのいる宮殿付近の土は比較的、健康的な土ではあったが、それでも魔物を栽培するとなるとスペースが必要だ。
しかも今回の場合、一つの国の民に分け与えられるほどの量。
となれば、それだけの魔物を栽培できるスペースはあそこにはない。
よってオレはシンの話を聞き、この荒地の場所へとやってきた。
「ま、とりあえずはこの場所を軽く耕してから、早速種を植えてみるか。すまないがジャック手伝ってくれ」
「任せておきな、兄ちゃん」
「僭越ながらキョウ様。私も手伝います」
「私も~!」
とジャックに引き続き、フィティス、ロックもクワを手に荒地をほぐしていく。
「キョウさん、僕も手伝わせてください」
「お、そうか? じゃあ、頼むわ」
そう言って協力を申し出てくれたシンにもくわを渡し、地面を馴らすのを手伝ってもらう。
そんな作業をやっている折、ふと隣りで汗を拭うシンが聞いてくる。
「やっぱりキョウさんでも砂地で魔物を育てるのは難しいでしょうか?」
「どうだろうな。砂だと水を溜めることができないから普通の魔物だとやっぱり育ちにくいんじゃないかな」
はっきりとは断言できないがおそらくその可能性は高い。
砂漠での砂地で植物を育てるのは地球ですら難しいと聞く。
こちらでもそうした砂漠環境下で育つ魔物をオレが見つけることができれば、そいつらを栽培することもできるかもしれないが、現状オレが持ってきたこいつらではそれは難しいと思われる。
無論、あとで確認のために砂地にもいくつか魔物の種を蒔いてはみるつもりだが。
「ひとまず、オレが改良を施した荒地でも育つキラープラント。それに豆科の魔物ジュエルビーンズにそれに落花星やバハネロ。あとウィードリーフも植えてみるから、どれが一番成長がいいか、まずは様子を見よう」
そう言ってオレはひとまず荒れた環境下でも比較的育ちやすい魔物を選んで地面を馴らした荒地へと植えていく。
キラープラントに関しては以前、オレが荒地で育てたことから実証済みだ。
おそらく今回の砂漠での魔物栽培において、こいつが一番成果を見せてくれるだろう。
続くジュエルビーンズと落花生は豆科の魔物であり、こいつらも意外と荒地でもすくすく育つ種類の魔物である。
豆科は荒地にも強いと聞いたが、まさにそのとおりである。
ウィードリーフはその雑草特有の繁殖力で砂漠の緑化に貢献できればと思う。
バハネロに関しては、とりあえずおまけでやってみようという感じだが。
「ありがとうございます、キョウさん。ここで手を貸していただいて本当に感謝の言葉もありません」
「よせって、別にそこまで大したことはしてねーよ。これは単にオレが砂漠での魔物栽培をしてみたいって好奇心もあったわけだからよ」
そう言って改めて頭を下げてくるシンにオレは思わず照れてしまう。
「おーい! 兄ちゃん! せっかくだからジャック・オー・ランタンも植えてみたらどうだー!」
そう言ってジャックは持ち込んでいたジャック・オー・ランタンの種をこちらに向ける。
「お、いいねー。じゃあ、やってみるかー、ジャック」
ジャック・オー・ランタンを育てるジャック・オー・ランタン。
絵面が面白かったんで思わず採用してしまった。
「うーん、こんなもんか」
それから数日後、オレは栽培に成功した魔物の数を確認して唸っていた。
当初睨んだとおり、キラープラントはいくつも芽が出て育っていた。
現在は小さなパッ○ン状態でうねうね動いている。
が、ほかの魔物の栽培はイマイチのようだ。
豆科のジュエルビーンズと落花星も芽は出てはいるが、やはりそれほど元気はない。
おそらく実らせる量もよくて通常の半分位の見込みか。
ウィードリーフもちょいちょ実ってはいるが、これらが増殖するにはまだまだ年単位の時間が必要のようだ。
ほかの魔物に至っては芽すら出ていない。
やはり過酷な環境には合わない連中も多いのだろう。
なお砂地に植えた種はやはりというか、出る様子はなかった。
「とりあえずキラープラントの実はいくつか収穫できるだろうが、それでもやっぱ量は足りないか……」
おそらくこれで数百個の実は確保できるだろうが、王国の全員に行き渡る量を考えれば千単位、いや万単位は欲しいところ。
それを常に実らせる魔物が欲しいわけであり、やはり現状ではまだまだ足りてないのが実感できる。
これは思ったよりも骨が折れる作業かもしれない。
そう思いながらもオレは新たな魔物を栽培するべきかと考え、この地の魔物の捕獲に行こうかと宮殿に戻ろうとした際、思いもよらぬ人物と出くわす。
「よおー、キョウ。久しぶりに会いに行ったらなんか砂漠に行ったって聞いて探したぞー。こんなところでなにしてんだ、お前?」
「そりゃこっちのセリフなんだが、オヤジ」
母さんとの料理対決以降、ご無沙汰だったオヤジとの再会だった。
そういえば、このオヤジ今まで何してたんだろうか。
思えば帝王との決戦では文字通り役に立っていないし。いや、それ以前に母さんとの料理対決でも役に立ってなかったな?
まるでダメなオヤジ……こいつはマダオ候補が出てきたぞ。
「で、真面目な話、ここでなにしてんだ? なーんか面白そうなことやってるっぽいかが」
そんなオレの脳内思考に気づいた様子もなく、荒れ地にて栽培中の魔物を見るオヤジ。
まあ、こんなんでも一応はオレの親だし、オヤジもこの世界で野菜とか作っていたわけだから、まるっきりの無能というわけでもないので、なにかの参考のために聞いてみるか。
というわけで現状をチャッチャと伝える。
「なーるほどなぁ。確かに砂漠で栽培できる魔物となるとそうあるわけじゃない。さすがのお前さんも手こずってるってわけか」
「そういうわけなんだよ。なんかいい手はねーか? オヤジ」
あまり期待せずに聞いてみたそのセリフであったが、そこから返ってきた答えは予想外のものであった。
「なら、そろそろお前さんも次の段階に行ってもいい頃合かもな」
「次の段階?」
なんじゃそりゃと思わず聞き返したオレに、オヤジはやれやれといった感じで答える。
「おいおい、お前さん忘れたのか? この世界は元々を人を次の段階へと押し上げる進化のために用意された世界だ。つまりは人が成長するための舞台でもあるってことだ」
「そりゃ聞いたけどさ、それがなんだって言うんだよ?」
「鈍い奴だなー、わっかんねーのか?」
勿体つけているオヤジにさっさと答えを言えと小突くオレ。
「つまりだ。お前さんのその魔物栽培のスキルも『次の段階』に行く頃合だってことだよ」
「?! それってオレの能力が成長するってことなのか?」
オレのその答えに頷くオヤジ。
それは流石に予想外の答えであった。
今までオレは現状の魔物やこの地にいる魔物で新たな栽培を行おうと考えていた。
だが、オヤジが提案した答えはまさにそれらの上を行く道。
そもそものオレのスキルを進化させるというもので思いつきもしなかった。
「まあ、そういうわけでちょいとそのための準備として、ちょっくら戻るとするか」
「戻るってどこにだよ?」
オヤジのそのセリフに対し、思わず問い返し、続き答えにオレは先程と同様の、いやそれ以上の衝撃を受ける。
「決まってんだろう。地球だよ」
「………………はい?」
「久しぶりの里帰りと行こうぜ」
まるで電車で日帰りでもするかのようにオヤジはあっさりと言ってのけた。
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