第143話「最後の七大勇者」

「いやー、それにしても今回の旅は色々あったなー」


「ホントよね。まさか砂漠での栽培からあんな事態に発展するなんて、アンタって案外トラブルメーカーなんじゃないの?」


 あれからオレ達はアリーシャ達に渡されたコブダに乗って砂漠を横断しながらそんなのんびりとした会話を交わしていた。

 まあ、ゲームや漫画、小説では主人公達の行った先で都合よくイベントや事件などがあるが、それが実際に起きると確かにトラブルメーカーと言われても仕方ない気がする。


「ですが、今回のキョウ様の活躍もさすがでしたわ。特に砂漠での新しい栽培方法! 粘土団子なる未知の農法から始まり、異なる魔物を配合して栽培する複合栽培! まさに画期的なアイディアでしたわ!」


「ははっ、そう言ってもらえるとオレも嬉しいよ」


 隣ではいつになくフィティスが興奮した様子でオレの活躍を熱く語っていた。

 その背後ではオレがアリーシャ達の国で栽培したジャック・オー・スイカ達も嬉しそうに跳ねていた。


「すごーい! すごーい!」


「僕たちのご主人様、すごーい!」


「だな。オレらの兄ちゃんはすごいんだぜ」


 あれからジャック・オー・スイカ達はアリーシャ達の国に根付いてくれたのだが、オレの方もこいつらのことが気に入ったので家に帰ったらこいつの栽培をしようと何匹こうしてもらってきた。

 こいつらはジャックの種から生まれたスイカ達であり、そのためかオレやジャックによくこうして懐いてくれる。

 もうすっかり魔物大所帯だ。

 

「そう言えば、しばらく街を離れていたから久しぶりに会いたい連中も多いわね」


 帰路の途中ということもあってか、ふとリリィが思い出すようにそう呟く。

 確かに。あの街を離れてから色々あったせいか、随分と会っていない人達のことを思い出す。


「アタシはなんといっても久しぶりにミナの食事が食べたいわ。王宮での料理もそりゃ勿論美味しかったけれど、やっぱりいつも口に馴染んでいた味はミナの料理だわ」


 リリィのその呟きにはオレも思わず頷く。

 確かに。王宮やいろんな場所でいろんな料理を食べてきたが、やはりその中でも一番口に馴染んだのはミナちゃんの料理であった。

 単純な美味しさなら王宮料理の一口、二口目の方が上だろう。

 しかし、何度も食べて飽きが来ない味という点では、やはりミナちゃんのあの素朴な料理が一番口に合う。

 久しぶりにミナちゃんの作る料理のことを思い出し、オレは思わず涎が出そうになるのをこらえる。

 うん、帰ったら真っ先に食堂に行ってミナちゃんの料理を食べよう。


「私はやはりカサリナ師匠でしょうか。まだまだあの人から教わりたいことはたくさんありますから」


 そう宣言したのはフィティス。

 確かに弟子であるフィティスからしてみれば久しぶりに師匠に会いたいという気持ちも出てくるだろう。

 しかし、あの人って普段どこにいるんだろう? いつも神出鬼没に現れるからなー。


「あとはイースさんに会って今回の冒険のお話なんかも聞かせたいですわ」


 そう言ってボソリと呟くフィティス。

 そう言えば、フィティスはイースちゃんとは少しいい仲になっていたんだった。

 きっかけは料理勝負の時からだが、そのあとに色々あって二人の距離は少しずつ縮まった。

 なによりも、あの恥ずかしがり屋で人見知りなイースちゃんがフィティスとは友達になりたいと宣言していたんだ。

 フィティスの方もそれを聞いて嬉しそうに了承してくれた。

 イースちゃんに仲のいい友達が増えるのはオレとしても嬉しい限りだ。


「キョウは会いたい奴とかっていないの?」


「オレ? そうだなー」


 リリィからの問いかけにオレはしばし悩む。

 会いたい奴というと実はたくさんいる。

 というのも、さっき二人が言ってくれたメンバーにも勿論会いたいが、なによりも肉親に会いたいって気持ちも強い。

 この世界でのオレの肉親。魔王をやっている母さんと、妹のヘルだ。

 二人共、元気でやってるだろうか?

 最後に会った時、ヘルは母さんの命令で城に戻ったんだったけ?

 ここ最近はずっと出番がなかったから不貞腐れているかもしれない。

 それを和ませるためにも早くヘルや母さん達にも会いたいものだ。あ、オヤジはノーサンキューで。

 と、オレがそんな風に悩んでいると、それを察してかリリィが呟く。


「まっ、アンタには会いたい人物ってたくさんいるから一人には絞れないわよね。今や七大勇者だけでなく魔王やその四天王、果ては女神様に至るまでありとあらゆる連中が知り合いだものね」


「あー、まあ、確かに、そいつは否定できないな」


 リリィの言うとおり、気づくとオレはこの世界の重要キャラとはほとんど知り合いになったんじゃないだろうか?

 特に七大勇者に関してはリリィを初めてとして“戦勇者”のアマネス。アマネスと言えば、あの人リリィにご執心だったけど、今頃リリィに会いたいーとか喚いてるんだろうか? リリィの方は記憶の隅に追いやってそうだが。

 それからロスタムさんとザッハークさん、この二人は最初は敵だったけれど色々あって今では頼れる味方だ。アラビアル王国での騒動も彼らの協力があったから解決できた部分も大きい。

 他は……そう言えばフェリドさんもいたな。

 思えばあの人とは帝城での決戦から全く会っていない。また今度どこかで会いたいものだが……その時はいつかの時のように普通の会話を交わしたい。

 あとはツルギさんがいた。全身を白いローブで包んだ謎の勇者。

 けれども、その正体は絶世の美少女。白い肌に真っ白の髪。まさに美麗の一言に尽きる素顔だったが、その彼女がなぜか出会って二度目の時にオレにキスをしたんだっけ。

 いや、まあ、あの時はアルカードさんの催眠で本人気づかずキスしていたらしいが……って思い出したら顔が赤くなってきた。

 そんなオレの微妙な変化を感じ取ったのか訝しむようにリリィが問いかける。


「急になに赤くなってんのよ?」


「い、いや、別に……」


 あ、危ない。危ない。

 そう言えばその時、こいつはあの場にいなかったんだった。だから、オレとツルギさんの間に何があったのか知らないんだった。

 ……まあ、知ったら間違いなく怒りそうなんで言うのはやめておこう。

 ここ最近、こいつのオレに対する態度が前よりもツンツンすることが多いから。


「ってあれ」


 オレはそこでふとあることに気づいて両手を開いてその数を確かめる。

 七大勇者と言えば、リリィ・アマネス・ロスタム・ザッハーク・フェリド・ツルギ。

 その数を数えても人数は六人であった。ということはあと一人足りないという計算になる。

 今更ながらオレは七大勇者の最後の一人とはまだ会っていなかったんだ。


「なあ、リリィ。七大勇者の最後の一人って誰なんだ?」


「え?」


 同じ七大勇者であるリリィなら知っているかもしれないと、そう声をかけるが返ってきた返答はなにやら微妙であった。


「それが……よくわかんないのよ」


「へ?」


 どゆこと? 同じ大勇者なのに知らないのか?

 まあ、リリィの経緯は色々と複雑だから他の大勇者を知らなくても不思議はないが。


「最後の一人って言うよりも、そいつ最初の大勇者なのよ」


「最初の大勇者?」


「そう。世界ではじめて自力で創生スキルを手に入れて女神様から大勇者としての称号をもらった勇者。けれど、それは今から百年以上前のこと。今ではその人物の名前も存在も伝説としてしか語れれてないわ」


「そんな伝説上の人物が七大勇者に名を連ねいていいのか?」


「まあ、七大勇者って言ってもこの世界の歴史上で大勇者の称号を得た七人の人物を指してのことだから。次に大勇者の称号を得た人物が現れれば八大勇者って改名されるんじゃない?」


 なるほど、そういうものなのか。


「……けど、伝承じゃ、その始まりの大勇者は今もなおこの世界のどこかで生きてるって話よ」


「へ?」


 それマジで言っての? ってことはその人、百歳以上超えてるってこと? それで生きてる?

 ど、どんな人間だよ……マジで勇者っていうか、色々人間超越してるじゃねぇかよ。とか、オレがそんなことを思っているとリリィが笑い話だとばかりに笑みをこぼす。


「まっ、あくまで噂よ。その始まりの大勇者には誰も会ったことないし、多分この先も会うことなんてないだろうから、忘れてていいわよ」


「そっか。まあ、そりゃそうだな」


 リリィの言葉に頷き、オレはその大勇者の話題を打ち切り、すぐさま別の話を始める。

 だが、この時、オレは知らずにいた。

 その最後にして最初の大勇者こそが、オレにかつてない事件をもたらすことに――。

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