第65話「看板娘VS吸血貴族」

「スピンがやられたようだな……」


「フフフ、奴は四天王の中でも最弱……」


「……人間如きにやられるとは魔族のツラ汚しよ……」


「いや、あなた達、善戦した仲間に対してそれは言い過ぎじゃないですか?」


スピン敗北後、仲間の元に向かうなりなにやらどこかで聞いたような四天王セリフがこちらにも聞こえてきた。

まあ、ノリノリで言ってるのはあの眼帯した厨二少女だけのようだし、イースちゃんとか嫌々言わされてる感が漂っていた。


「善戦しても負けたら意味なんじゃないの?」


「……それを言われると返す言葉もないですね」


「というか、スピンさー」


言って例の眼帯厨二娘がスピンの作った料理を食べながらポツリと呟いた。


「これだったら相手の料理のコピーにこだわらず、いつものスピンの料理のほうが美味しかったんじゃない?」


「……あ」


ゴスロリ少女のその一言に盲点だったとばかりに呟くスピン。

まあ、確かにあれ最初から刺身じゃなくなんか難しい料理とかにして相手のコピーにこだわらず自身の調理法でやってれば確実に勝ってたよな。

とは言え、それはあくまでも対戦相手がアマネスだった場合の結果論であり、オレやフィティスが普通にスピンと戦っていたら高確率で負けていた可能性が高い。

正直、今回のバトルはラッキーパンチならぬ相性勝ちもいいところだったのだから。


「では続いて次の三回戦、中堅戦の組み合わせと指定料理の開示を行う」


そうこうしている内にグルメマスターが次なる対戦と指定料理の発表を行おうとしていた。


現状、こちらと向こうの勝敗は一勝一敗。

つまり次の中堅戦においてどちらかが一勝することにより事実上のリーチをかけられることとなる。

その意味でも次の中堅戦の勝負はまさに勝敗を分ける最も重要な対戦と言っても過言ではない。

次の対戦の勝敗で戦局は大きく傾く。


それを理解してかオレ達のみならず魔王側にも緊張が走り、そしてグルメマスターの手より次なる対戦表が開示された。


『第三回戦 “食堂屋娘”ミナ 対 “吸血貴族”アルカード』

『指定料理:麺料理』


その対戦表を見た瞬間、オレは知らず拳を握り締め、対戦表に名が記されたミナちゃんの方を振り向く。

次の大一番、大将戦よりもある意味、重役を担うであろうその席に座ることとなったミナちゃんの精神を心配するが、そこにあったのはいつもと変わらぬ穏やかな、そして落ち着いた姿のミナちゃんであった。


「なるほど、次の対戦相手はあなたということですか」


見ると以前、戦場で相対した吸血鬼族アルカードがミナちゃんを前にバラを片手に相手を選別するように見下していた。


「正直、あの時、戦場にて私を打ち破った美しい獣にリベンジをしたいと思っていたのですが、どうやら彼女は今回の料理バトルには参加していないようですね。至極残念です」


どこか失望するように語るアルカードに対して、しかしミナちゃんは気圧されることなく目の前の男を見返しながら毅然とした態度で宣告する。


「彼女は私の親友です。今は大事な戦いの最中でここには来れません。ですが、私は彼女の分までこの料理大会で戦うと誓いました。あなたが彼女と戦いたいと言うのでしたら、私が彼女の分も含めてあなたと真っ向から戦います。後悔は決してさせません」


そこには無力なはずの一般人でありながら、強大な存在であるアルカードに対し一歩も引かぬ凛とした強さを見せつけ、それに対しアルカードはそれまで大して興味も持たなかったであろう目の前の平凡な少女に「ほぉ」と呟き、目を細める。


「なるほど、これは失礼をしました。そこらの道端に生える名も無き花かと思っておりましたが、なかなかに気骨のある様子。気に入りました。あなたのような平凡な花が果たしてどこまで輝きを見せられるのか次の対戦楽しみにさせていただきましょう」


そう言って手に持ったバラを放り投げ、静かに闇の中に消えていくアルカード。

あいつ、あんなキャラだったけ? 特にバラとか。


一方のミナちゃんは毅然とした態度をしつつも、よく見ればわずかに肩が震え、膝がガクガク言ってるのがわずかに見えた。

どんなに強がっていても彼女はオレ達の中ではただの一般人。

なんの力もなく、ただ料理が得意なだけの町娘に過ぎないんだ。

今回のような料理バトルに巻き込んでしまったことを今更ながらに申し訳なく思い、そのことについて改めて謝罪をしようと近寄るが、そんなオレの心中を察してか知らずか、ミナちゃんはいつもの明るい笑顔をこちらに向けた。


「大丈夫ですよ、キョウさん。私、キョウさんのためにもリリィちゃんのためにも、なによりみなさんのためにも必ず――勝ちますから」


普段決してそんな強気を言わないミナちゃんがハッキリとそう断言した。

そこには彼女の抱えた決意の重さを感じ取り、それに対しオレは彼女の思いを汲み取るべくただ静かに頷いた。


「――ああ、任せたぜ。ミナちゃん」

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