第86話「反撃の雄叫び」

 どうも、キョウです。

 現在軽くムカついております。

 あ、いや、別に帝王のやつにいいようにされた件についてはむしろ落ち着いてきていて、こちらは内心静かな怒りであいつにどう仕返ししてやろうかとすでに戦略立て始めてるので問題ないです。


 問題はもう一方の方。

 先程、リリィの兄であるクロガネさんから明かされた真実。

 リリィのやつの秘密を聞いて、現在言いようのない怒り心頭中です。


 あいつ、もしもこれが真実だとするなら、あいつのやろうとしていることはすなわちそういうことだよな。

 あ、ダメだ。冷静に対処しようとしても感情的部分が強すぎる。

 とりあえず、あいつに会って一言言ってやらないと。


「なめてんじゃねーぞってな」


 そう言ってオレは怒りを抑えるように拳を握るものの、どうにも周りにはそれがバレバレだったようで心配をされてしまった。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。とりあえず魔王城に戻って残りの四天王と全魔王軍を動かして帝国に侵攻して、あの帝王の首をチョンパしてあげるから♪」


 笑顔でおっそろしいことを言う我が妹。さすがは魔王の娘にして四天王のひとりと言ったところか。

 しかし一旦魔王城に戻るのは最善の策かもしれない。その前に数箇所ある場所に寄る予定だが。


「そうだな。とりあえずは魔王城を目指しながら移動をしよう。というわけでロック頼めるか?」


「うん!」


 元気よく返事をしてシームルグの姿へと変化するロック。オレ達はその背へと乗り込み、ここで合流したほかの魔物達も乗り込んでいく。

 またその際、ロックの背中へ乗り込んでいくジャックにエストさんがなにやら声をかけていた。


「ジャックさん……お気をつけて」


「なに、心配をするな。エスト嬢。すぐに戻ってくる。その時はぜひエスト嬢の料理を食べさせてくれ」


 そう言ってカッコつけるように別れの言葉を告げるジャックだが、それモロに死亡フラグな気が。


「キョウ殿。リリィのこと、お願いします」


 そして最後にクロガネさんがオレにリリィのことを頼み、オレはそれに大きく頷く。


「任せてください。必ずあいつを連れ戻してみせますから」


 そう言ってオレ達はこの地より離れ、魔王城のある方角へと向かう。







「それにしても兄ちゃん。改めて兄ちゃんの人脈の深さには恐れ入るな」


「ん? 急になんだジャック」


「だってよ。兄ちゃんは人間だけじゃなくオレ達魔物ともこれだけ深い絆を持って、しかもその人脈も広いんだぜ。おそらく世界広しと言えば人間と魔物、その二つの種族にこれほど広い絆を持ってるなんて兄ちゃんだけだろうな」


 そうジャックに言われて、確かにそうなのかもしれないと思った。

 この世界の魔物はまるで人間に狩られるために用意されているかのようであった。

 それが証拠にこの世界には野菜などがなく、食料となるもの、武器や日用品の原料となるものもすべて魔物。

 つまり人は魔物を狩らなければ生きていけない世界なのだ。

 その世界において人と魔物その両方に絆を持つなんているはずのない異端だなと今更ながらに思う。


「……ん?」


 だが、その瞬間ふと思った。

 あまりに当たり前すぎて疑問に思うことすらなかったこと。

 この世界には野菜はない。だが、魔物を倒せば人は食の確保が出来、生活の向上すら行える。

 それはまるで人が魔物を倒す理由を摂理のように定めてあるかのよう。

 そこに何かこの世界の根源に隠れた秘密があるかのようで。


「おにい……兄上! なにやら魔王城の方で異変があるようです」


 だがオレのその思考はヘルの声により遮られる。

 見るとそこでは魔王城に対し攻撃を仕掛けている人間の軍隊の姿が見えた。


「あの旗……どうやらアルブルス帝国の兵士みたい」


 それはあの帝王勇者が統治する帝国の軍勢。

 おそらくはその先遣隊であろう部隊がすでに交戦を始めている光景が見えた。

 連中がここにいるということはアマネス不在のヴァルキリア王国を通り抜け、こちらへ進撃したということ。

 最悪ヴァルキリア王国が陥落した可能性もあるが、まだ数日そこらでいくらアマネス不在とは言えそうやすやすと国一つが陥落するとは思えない。

 おそらく籠城で立てこもっているところを迂回してきたのだろうが、帝王勇者の能力を考えるならば最悪のケースも考慮しておく必要がある。


 オレ達は急ぎ、魔王城の上空へと到達し、そのまま城の内部へと入り中庭で指揮を執っていたイースちゃん達と合流する。

 イースちゃんはオレ達が戻ってくるのを見ると一瞬びっくりした様子を見せるが、すぐに安堵したように微笑み、だがオレ達の周りにフィティスがいないのを確認すると途端にキョロキョロし、不安な表情を浮かべる。うーむ、目まぐるしいくらいに表情の変化する子だ。


「あ、あの……フィティス……さん、は……?」


「……あいつは帝王のところに捕まった。けどすぐに取り戻しに行く。そのためにもまずは城を襲っているこいつらの迎撃からはじめよう」


 言ってオレは城の外壁から外の戦況を確認する。

 そこではイースちゃんが作ったであろう氷の結界で城の周囲は閉ざされ、兵士達はその氷の壁を前に立ち往生を行っていた。


「一応聞いておきたいんだけど、四天王の皆さん。あれくらいの軍勢相手だったらどのくらいで勝てます?」


 オレは背後に勢ぞろいしていたヘル、イース、アルカード、スピン達へと問いかける。


「くっくっく、誰に物を言っているのだ兄上? あのような連中30分もあれば皆殺しよ」


「まあ、私たちのうちひとりでも出陣すれば問題ないかと。所詮敵は先遣隊のようですし」


「全員でかかるなら多分10分はかかりませんよ」


「あ、あの……私はその……争いごとは……その……」


「ああ、わかってる。イースちゃんは防御に専念してもらえれば十分だ」


 おそらくイースちゃんの性格もそうだが、彼女のこの魔力はむしろ防御に徹してこそ真価を見せるタイプだ。

 ならば問題はない。まずはこいつらを追い払った後、こちら側から改めて帝国への宣戦布告と侵攻を始めるまで。

 そう思い指揮を取ろうとした瞬間、先遣隊とこちらの城との間に誰か瞬時に現れるのが見えた。


「あれは……!」


 それは紛れもない、あの時、この魔王城の会議室に現れた帝王からの使い、ツルギと名乗った勇者であった。

 その隣には戦勇者アマネスの姿もあった。


「やあ、キョウさん。お久しぶりです」


 不思議とそのツルギの声が遥か遠く離れているにも関わらずオレの耳元に届いた。

 そして、それに反応するかのように隣に立つアマネスがこちらをゆっくりと振り向く。


 まずい。この可能性、アマネスも帝王の手にかかったと見るべきか……!

 この状況ならなんとかなると思っていたところに最悪の援軍だ。


 そう思い身構えるオレ達に向けアマネスが片手をあげ、それを地面に叩きつけた瞬間、大地より生まれた無数の武器の数々が、彼女の背後に無数に広がっていた帝国の先遣隊へ向け放たれ、その一撃で瞬く間に帝王の軍勢が壊滅していった。


「へ?」


 あまりの事態に思わず素の声をあげるオレ。

 そんなオレに向けアマネスはよく届く声で大きく宣言をする。


「待たせたな! 栽培勇者! 戦勇者アマネス! ここに見!参!だ!!」


 言ってドヤ顔のまま胸を張るアマネス。

 あー、うん、あれ間違いなく本物のアマネスだわ。

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