第53話「魔王は料理バトルの夢を見るのか?」
「料理バトル?」
「そう、噂じゃキョウちゃん、大料理大会で準優勝までいったんでしょう? なら料理バトルならキョウちゃんの方にもそれほど悪い条件じゃないし、これでならお互いに平和的に解決できるでしょう」
うーむ。確かにその通りだな。
このまま単純に戦をするよりも、そうした勝負で決着をつける方が被害は少ないし、なによりふつうに戦うよりもこっちにも勝算があると思うが。
「けど、母さんはそれでいいのかい? 普通こういう決め事って戦いだとか戦争だとかで決めるもんだけど」
そんなオレの発言に母さんは思わず涙目を浮かべる。
「キョウちゃん~、なに言ってるの~。可愛い息子と本気の戦いなんて出来るわけないじゃない~! キョウちゃんを傷つけるなんて私には無理よ~!」
そう言ってオレに抱きつく母さん。
思わず可愛いと思ってしまう。
「ちなみにこれオレがいなかった場合はどうしてたの?」
「え、そんなのもちろん敵対する人間を叩き潰して、私達の要求を通すに決まっているじゃない」
やっぱり魔王だった! 母さん!
うーん、以前に女神様と会った時「君でなら魔王と対峙できるよ」の意味が深く理解できる。
母さんはオレのことを溺愛しているから、極力傷つくような決着を望まない。
だからこそ、料理バトルという双方に取っても被害が少なく、かつバトルとして成立するものを選んでくれた。
しかもこの世界でのオレの活躍を聞いた上での判断だろう。
おそらく、これ以上に魔王軍との対決に対して、平和的かつ公平な勝負もないように思える。
そう思い、オレはちらりとヴァルキリア王国の女帝アマネスさんを見る。
彼女がこの条件での勝負を受け入れてくれるか、否か。
「面白そうだな。その勝負受けよう!」
と彼女は愉快とばかりにその申し出を受ける。
うん、わかりやすい人だ。
「それじゃあ、決まりね。そっちも代表選手の選択や料理の準備とか色々あるでしょうから、勝負は今からひと月後の魔王城で行いましょう。あなたたちもそれでいいわね?」
そう母さんが背後に声をかけると、その背後から二人の人影が現れる。
「はは、相変わらずうちの魔王様は気分屋ですね。ですが構いませんよ、僕はあなたについていくだけです」
それは褐色の肌に鷲の翼、獅子を思わせる尻尾が生えた男。
おそらくは四天王の一人なのだろう。そして、もうひとり。
「くっくっく、構いませぬ。どのような勝負であれ、ひと月後のその闇の晩餐で旨さによる阿鼻叫喚をあげるのは彼らの方だということをこの我が証明してみせよう」
漆黒の髪に同じく全身漆黒調のゴスロリ服を来た、片目を眼帯で隠したいかにも厨二全開のデザインの少女。
う、うわー。い、痛い子だー。この子も四天王の一人なのかな?
と思っていたら、こっちが引きながら見てたのがバレたのか、なんかすごい勢いで睨んできた。
ってあれ、これで母さんを合わせて合計四人だよな。ってことはあと一人足りなくないか?
「もうひとりの四天王は諸事情のため不在なの。けれど、ひと月後にはこちらも最後の四天王の迎えは完了しているから心配しなくていいわよ」
と、こちらの心理を読み取ったかのように母さんがそう付け加える。
「それじゃあ、ひと月後に改めて魔王城へのご招待に伺いますから、その時にどうぞよろしくお願いいたしますね」
そう言って魔王母さん率いる四天王の三人は邪龍へと変身した母さんの背に乗り、その場から立ち去った。
「さて、というわけでひと月後の魔王との料理バトルに向けて、こっちの選手五人を選びたいと思うのですが、アマネスさんは誰かいい人いますか?」
「そうだな。では私が立候補しよう」
「え、マジですか? というかアマネスさん、料理できるんですか?」
「出来ん!」
と自信満々で宣言。おおおおいいいい!!
「だが、剣の扱いに関して言えば私は誰にも負ける気はしない。包丁とやらもそれと変わらないのだろう? それに私は昔から覚えがいいと評判でな。ひと月もあれば料理の一つや二つできる自信はある!」
と謎の根拠をもとに選手の立候補をするアマネス。
ま、まあ、今回の料理バトルは魔王領とこの王国領をかけた戦いになるんだから、こちらの代表でもあるアマネスさんが参加するのは当然かな、と納得しておくことにする。
「もちろんオレも参加する予定だが、あと三人」
「それなら、ぜひ私にお任せいただけませんか。キョウ様」
といつになく強気な発言でフィティスが自ら名乗りをあげた。
「私もグルメ勇者と呼ばれる称号を持つものです。なによりここ数ヶ月キョウ様と出会い、その魔物栽培の技術や料理への応用力を最も間近で見続けてきた者です。今の私でならキョウ様の隣に並び立つ自信があります」
いつになくまっすぐなその瞳と断言にオレは静かに頷く。
どっちにしてもフィティスにはオレからも参加をお願いする予定だったのだから。
「アタシはさすがに無理ね。料理となると専門外だし」
「いや、リリィは十分よくやってくれたよ。四天王の一人をあれだけ完膚なきまでに倒してくれたんだし、おかげで早々に母さんを引きずり出してこの勝負に持ち込めたんだ。今回の立役者は間違いなくお前だよ」
と申し訳なさそうに俯くリリィに対して、オレはそう事実の述べ、それを聞いたリリィはわずかに頬を染めそっぽを向く。
「そ、それで残り二人はどうするのよ、キョウ」
「それなんだが、ひとりはミナちゃんに頼もうかと思う」
オレのその提案にリリィ含むフィティス達全員が賛同してくれた。
それもそうだろう。大料理大会において小細工やらなにやらで目立っていたのはオレだが初戦の料理対決ではミナちゃんの調理がなければそこで確実に敗れていた。
ミナちゃん自身、自己主張が低く謙虚で大人しい子だが、その料理の腕はおそらくオレ達の中でも一番と言えるだろう。
これで残るはあと一人。一体誰を入れるか。
大料理大会の際に知り合いとなったカサリナさんに連絡を入れるか?
それとも天才勇者のシンに声を掛けるべきか。
そうやってオレが悩んでいる時、そいつはまた唐突に現れた。
「よお、キョウ。うまいことあいつを引きずり出して料理勝負に持ち込んだらしいじゃねーか。いやー、お前本当に案外やるのなー」
そのとぼけた口調とファンタジー世界には場違いな胡散臭い探偵全開なファッションと見た目。
言うまでもない、オレの親父ヒムロ=ケイジだ。
何しに来たんだよと問いかけるよりも先に親父が宣言をする。
「その料理バトル。オレも参加させてもらえないか? キョウジ」
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