第177話「野菜の栽培」
「野菜……?」
オレが告げたセリフに疑問符を浮かべるケイジ。
まあ、急にこんなことを言われれば当然だろう。しかし、
「男は度胸。とりあえずやってみな」
オレは戸惑うケイジに持っていた魔物の種をいくつか渡し、それを地面に植えるよう指示する。
ケイジは戸惑いつつも手に持った種を地面に植える。
「あの、これでいいんですか?」
一通り渡された種を地面に植えるとケイジが遠慮がちにオレに聞いて来る。
「ああ、大丈夫だぜ。あとは水を撒いて、様子をみよう。早ければ明日には結果が出てるだろうし」
「は、はあ……」
なおも信じられないといった様子でオレのセリフを聞き流すケイジ。
まあ、こういうのは実際に見て体験した方が早い。
オレはルーナやロックに手伝ってもらって、ケイジが種を蒔いた場所に水を与えた後、軽い肥料となるものを地面に植えて、その日の行動は終えた。
なお、ケイジは当然のように泊まる場所もあてもなかったため、ルーナに相談して城の一室を貸出してもらえた。
そして、翌日。
「……マジ」
ケイジが植えた場所からは苗が実っており、それはオレが与えたスイカラの種であったが、そこに実ったのは魔物スイカラではなく、以前オレが地球で見たカラハリスイカの実であった。
無論まだ実ったばかりで大きさは小さい。
「わー! なにこれー? スイカラじゃないよねー。これが野菜なのー!?」
なおそれを見たルーナは自分の知るスイカラと違う姿に興奮した様子で聞いて来る。
「ああ、まあ、そんなところだ。で、これで信じる気になったか?」
「……まあ、そうですね」
問いかけるオレに対し、ケイジは未だ半信半疑の様子であったが、実際自分が植えた場所にこうして実を持つ苗がなったのだから信じないわけにはいかない。
ケイジは自分が植えた苗と、隣でオレが栽培している魔物を見比べながら呟く。
「……野菜を栽培……。よくわからないけれど魔物を栽培するキョウさんに比べると、ちょっとインパクトないですよね」
あー、確かにそれはあるが。
君の野菜栽培はそれはそれで便利だよ。魔物は自我がある分、色々と一長一短だからね……。
まあ、とにかく自分の力に納得したのかケイジは「なるほど」と頷きながら自分が植えた苗とオレから渡された魔物の種を真剣に見比べる。
「ということはこれ、地球の野菜に近い形の魔物を植えれば、その野菜になるってことですよね……。なら、大根や人参とかはマンドラゴラ、アルラウネらへん? トマトは……それっぽい魔物がいれば、その種で作れるのか……」
さすがにオレのオヤジというべきか自分の能力が分かった途端、それに対する順応力は高かった。
あとはオレが何かを言うまでもなく、ケイジなら自分のスキルを開発し、成長させるだろう。
そんな風にケイジを見守っていると、隣にいたルーナが嬉しそうな声を上げる。
「キョウ君ってすごいんだねー! 自分だけじゃなく、他人のスキルの開花までさせるなんてー! すごいよすごいよー! こんな風に魔物を自由自在に作れる人、僕や父さん、ミラーカ以外に初めて見たよー! これ後の世に口伝とかで伝えられるかもね! 魔物を自由に生み出せた五人の逸材とか!」
と、ぴょんぴょんとはしゃぐルーナ。
まあ、ケイジのは正確には魔物ではないんだが、ルーナから見れば魔物から変化したヤサイという名の新種の魔物だから間違ってはいないか。
とは言え伝承に載るのは勘弁だな。
ルーナやそのお父さんとかはともかく、もし書物とかに残すなら、オレやケイジに関してはぼかすようにルーナに頼んでおくか。
そんな風なことを思った瞬間であった。
大地を揺るがすほどの振動がこの国を襲った。
「うおッ!?」
「う、うわあッ!!」
「! これは……!」
オレとケイジは慌ててその場に四つん這いになり、ロックもオレにしがみつくように倒れる。
一方で、その振動を受けてルーナは真剣な表情をして、街の入口の方を見つめる。
「これは……」
これまでにないルーナの焦るような表情。
やがて、それに追い打ちをかけるように街の人達が慌てた様子でこちらに駆け寄るのが見えた。
「る、ルーナ様! た、大変です! ま、魔王が! 魔王軍が攻めてきました!!」
「!? 魔王軍!!」
街人の叫びにオレはたまらず反応する。
それはすぐ傍にいたケイジも同じ様子であり「ま、魔王とかいたの!?」と流石に慌てた様子であった。
「……分かった。皆は城に避難して。武装兵とあとはゴーレム隊を出動。あとお父さんにも知らせて万が一の時はアレの使用もお願い」
「了解いたしました! ルーナ様、どうかお気をつけて……!」
「うん。それじゃあ、行ってくる」
街人にそう告げると、ルーナはその場から駆け出す。
「あ、おい! 待てよ、ルーナ!!」
「ごめん、キョウ。この先は君達を巻き込むわけにはいかない。君達は城の中に入って隠れていて!」
思わず声をかけるオレであったが、ルーナはそれだけを叫び、街の入口へと消えていく。
あとには慌てた様子で城の中へと向かう街人達と、それとは逆に、それまで街の整備などをしていたゴーレム達がゆっくりとした動きでルーナの後に続くよう街の入口へと向かう。
オレはそんな混乱渦巻く状況の中、考える。
魔王。恐らくそれはオレが知る母さんではなく、別の……初代魔王フレースヴェルグのこと。
そして、フレースヴェルグとは他ならないオレが知る“あのルーナ”であるということ。
正直、この時代でオレが出会ったあのルーナと、初代魔王と呼ばれた“あのルーナ”の関わりについてはまだ分かっていない。
だが、今ここにはあの初代魔王と呼ばれたルーナがいるはず。
ならば、オレはその彼女に会わなければならない。
それはこの時代のルーナと、オレのいた時代のルーナ。その謎を解き明かすためでもあり、オレをこの時代に飛ばしたのが魔王のルーナならば、それを戻せるのもやはり同じく魔王のルーナであるはず。
それを確かめるためにもオレは初代魔王と会わなければならない。
恐怖はあるが、それ以上に会いたいという気持ちが強い。
それはオレのすぐそばにいたロックも同じ様子であった。
「……ぱぱ」
「ああ、わかってるよ。ロック」
オレはロックと共に頷き合うと、その場から立ち上がり、共に街の入口目指し走り出す。
「え、ちょっ!? キョウさん!?」
「悪い、ケイジ! お前は城の中に隠れていろ! オレ達はルーナの手助けに行く!」
それだけを言いオレとロックは共に街の入口へと向かう。
目指すはその向こうにいる初代魔王フレースヴェルグ。
オレが知る“あのルーナ”に会いに行くために――。
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