第32話「VSリヴァイアサン」
リリィ視点
「さすがはSランク魔物、そう簡単にはいかないわね」
大海を目の前にそこから現れる竜のような外見を持った怪物。海の支配者リヴァイアサン。
危険度S級とされるその魔物は一流の冒険者集団が連合を組んでようやく退治可能なほどの強敵。
個人で戦うレベルをはるかに逸脱した相手でもある。
「とは言ってもキョウ様のためです。私は退く気はありません」
そう言って前線に躍り出るのは勇者の称号を持つフィティス。
彼女はもとより食材として価値の高い魔物を単独で狩ることを得意とする武闘派の勇者。
事実彼女がこれまで捕らえてきた魔物の中にはAランク相当の魔物も多く存在した。
だが、その彼女でもSランクを討伐したことは未だない。
レイピアから放たれる軌跡が無数のかまいたちとなり、リヴァイアサンのウロコに傷を付けるが本体へのダメージはまるでない。
その後、反撃とばかりに口から超水圧の水のブレスを吐き出す。
瞬時にその場を離れ一撃を避けるものの、ブレスがあたった場所には巨大なクレーターが出来ており、単純な破壊力で言えば龍種が吐く炎のブレスをも上回る。
「ぴいいいいいいいいいっ!!」
上空から鳥の鳴き声と共に巨大な真っ白な鳥がその爪をリヴァイアサン目掛け突き立てる。
あれはシームルグのロックちゃんであり、その姿はすで巨象を上回る大きさ。
だが、その鉤爪の攻撃ですらリヴァイアサンには致命傷を与えられず、逆に尻尾の一撃を受け無数の羽根を散らせながら上空へと退避していく。
本来シームルグの危険度は最高ランクのSS。
まともに戦えばシームルグの方が勝る。だが、それはあくまで完全に成熟したシームルグでならの話である。
現在のロックちゃんはまだ子供と呼べる年齢であり体格。
本来象すら握れるほどの巨大な神鳥なのだが、それほどの域にはまだ達していない。
おそらくランクで言えばAランクに届くどうかだろう。
それではSランクのリヴァイアサンには勝てない。
こちらの戦力は個人個人は高レベル冒険者の集団にも劣ってはいない。
だが、決定的に相性が悪い。
海を戦場とするリヴァイアサンはその身を海の中へと潜り、好きなタイミングで攻撃を仕掛けてくる。
そのせいで常に奇襲まがいの攻撃を受け、体勢を崩された状態からの反撃に転ずるしか攻撃方法がなかった。
アタシも攻撃手段は剣術に限定されているため、ああも対象が海に潜られると攻撃するタイミングがつかめない。
「どうやらオレの出番のようだな」
とその時、それまで隣で静かに浮かんでいたジャックがすっと前に出た。
「オレの出番って……アンタ、なにかできるの?」
「ああ、この日のためにオレはずっと取っておいたのさ、オレのクラスチェンジ即ち進化を」
進化。聞いたことがある。
魔物の中にはある一定以上の経験や能力の上昇を得ることによって、現在の種族からさらに上位の種族に生まれ変われると。それこそが進化、クラスチェンジと呼ばれている。
「つまりそれって、アンタ今から上位の種族に進化できるの?!」
「ああ、兄ちゃん達と出会い、旅を経てオレの進化の条件が満たされたのさ。いつか兄ちゃんがピンチの時にこの封印を破るつもりだったが、どうやら今がその時のようだ」
言ってジャックの体が光に包まれ、そのかぼちゃの体に次々とヒビが入る。
そして、殻を破るように光の中から新たなジャックの姿が現れる。
「ふぅ……これが進化か。いささか奇妙な感覚だが、悪くない」
そう言って現れたのは人間の姿をしたかぼちゃの紳士。
どこから出たのか燕尾服を着こなし、杖を片手に帽子をかぶるその姿はまさに王国の貴族や紳士を思わせる出で立ち。
……ただし頭はかぼちゃのままだけど。
「さて、それでは片付けましょうか」
進化したことでキャラも変わったのかなんかやたら紳士風にカッコつけた言動で周りに無数の火の玉を生み出す。
いや、あれはただの火の玉じゃない! まるで地獄の底から現れたかのようなその青い炎は通常では考えられない熱量を携えていた。
「さしずめイグニス・ファトゥス、愚者の炎とでも呼びましょうか。冥界にしか存在しない地獄の炎です」
上級の魔術師が冥界との門をつなぐことでようやく現界可能な炎を目の前のかぼちゃ紳士のジャックはあっさりと使いこなしていた。
すでにジャックの周りには十を越す冥界の炎がまるでランタンのようにいくつも佇んでいる。
「では早速ですが、幕引きの時間です。レッツショーダウン」
ジャックが杖をリヴァイアサンに向け指揮を振ると同時に周りの炎が一斉に向かう。
これだけの炎、いかにリヴァイアサンと言えども無事ではすむまい!
と思ったらあっさり吹き飛ばされてジャックも吹き飛んだー?!
「ふふっ……やはり進化したとは言えEランク魔物がCランクに変わっただけ……Sランクには敵わなかったよ……」
がくっ。
なんかそれっぽい演出さんざんしておいてこのオチとか!!
余計なイベントに尺を取るなー!!
ぜーぜー、アタシもキョウの影響かなんかよくわからないツッコミを入れてしまった。
見るとすでにロックちゃんも吹き飛ばされ地面に転がってばたんきゅ~してるし、フィティスもかなり疲弊しているのが分かる。
こうなったら、アタシが切り札を切るしかないのか。
そう思いながらも冷や汗を流し、決意を固めようとした瞬間。
アタシの一瞬の硬直を逃さず、海からダイブし空中に躍り出たリヴァイアサンがその巨大な口を開き向かってくるのが見えた。
まずい――!
咄嗟に回避をしようとするがすでに射程内に捉えられ今から回避してもその場所ごと持っていかれると未来予知をした瞬間、雪がこの地一帯に降り注ぐ。
「
その歌声にも似た呪文の名を聞いた瞬間、私を飲み込もうとした形のままリヴァイアサンが空中で完全に凍りついていた。
見ると一面の海全てが凍りつき、海という地形そのものが変化していた。
アタシもフィティスもこんな天候や地形すら一瞬で変えた術の持ち主へと視線を移し、そこには崖っぷちに立つ白い魔女とその魔女の肩に乗る小さなドリアードの姿があった。
「……手助けに、きました」
「みなさーん! イースちゃんがキョウさんに頼まれて、皆さんの協力にきましたー! 安心して任せてくださいねー!」
それはいつかの時で知り合いになった雪の魔女とそのお友達のドリちゃん。
彼女の実力は国の代表とされる勇者に匹敵するか、あるいはそれ以上。
なによりも彼女が持つ属性の雪と氷は、水を司る魔物にとってある意味、炎以上の天敵である。
なんとか自身を氷付けにした氷を砕き、地面に降りるリヴァイアサンだが、そこにはすでにリヴァイアサンが得意とする海のフィールドはなく、一面氷付けの地面でやむなく地上戦を迫られるリヴァイアサン。
水中の時は捉えることができなかった奴の動きも陸の上ではそれが半減しているのが見て取れる。
「ありがとう! イースさん!」
アタシは雪の魔女にお礼を言い、改めて剣を構え、リヴァイアサンに向き直る。
これなら行ける。
待ってなさいよ、キョウ。これほどの援軍を送ってくれたんだから、間に合いませんでしたーなんてカッコま悪い結果にはしないわよ。
必ずアンタとミナを勝たせるためにこいつを倒して必ず時間までに届けてあげるわよ!
そう決意し、アタシは氷結の戦場を駆けた。
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