第31話「VS賢人勇者」

話を整理しよう。


オレの親父は世界各地を渡り歩いては飛んでいくよくわからない仕事をしていた。

前に親父に「具体的に仕事何してんの?」と聞いても「世界中を回ってる」としか返ってこなかったので、あんま気にしないようにしていた。

時折帰ってくるたびに変なお土産を持って帰ってくるが。


まあ、そんなわけで小さい頃から親父が家にいる時間は少なく母親もいなかったのでオレはこうしてひとり成長していったわけだが。


なんでその親父がところにいるんですかねぇ?


「あー、そっかそっか。お前には言ってなかったなー。オレ世界中飛び回ってるって言っただろう。あれ異世界のことだわ」


はー?! ふざけんな! どこの世界に異世界飛び回る父親がいるかー?!

と思いっきり叫びたいがあまりの事態に興奮でさっきから「ぜーぜー」としか言えない。


「というかその様子を見るとお前も異世界転移してんのなー。まあ、あれか? オレの息子だから異世界転移の能力がついていたのか」


なにー?! オレが異世界転移したのは偶然じゃなく、アンタの息子だったせいかー?!

ふざけんな! そんな妙な伏線回収はいらねーんだよ!!


「まあ、なんにしてもここで会ったのも親子の縁だ。戦う際には父親を立ててわざと負けてくれよー」


とふざけたこと言いながら握手してくる親父の手を「ふん!」と振り払う。

「つめてー息子だなー」とかボヤいてるが知ったことか。

もしもてめーと対戦する機会があったら、育児放棄を含めたこれまでの鬱憤をぶつけてやるわ。

ちなみに隣りミナちゃんが慌てふためき、なぜか親父に頭を下げ始めてる。


「あ、あの、キョウさんのお父さんなのですか? わ、私、キョウさんの料理人のミナといいます! その、キョウさんにはいつもお世話になっています!」


「おー、可愛い子だねー。いやいやうちの息子がお世話になってこちらこそ申し訳ないよー。もしよかったらこんな息子でよければもらってやって……」


だー! もうー! それ以上喋るんじゃねー! 親父ー!!






「くっくっく、そうか、あれはお主の父親だったのか。いや、対戦前に面白いものを見せられたよ、くっくっくっ」


先ほどのやり取りを見られていたようで、先程から一回戦の相手であるカサリナさんからくつくつと笑われている。

しかし、そこは相手も国の代表であり前回の準優勝者。

口では笑っていてもその目は真剣そのものであった。


「それではまずはトーナメント一回戦! メブエル王国代表賢人勇者カサリナ選手対エルクス王国代表ミナ&キョウ選手の料理対決を始めます! なお、この戦いは前年度の準優勝者カサリナ選手より海鮮料理の指定を行っております!」


いよいよ大料理大会の第一回戦が始まりで会場中は熱気に包まれる。

対峙するカサリナさんも両手に包丁を構え、台座の上には数々の食材、魔物が並んでいた。


「それでは大料理大会一回戦、はじめー!」


司会者のその宣言と同時に、カサリナさんの流れるような包丁さばきが始まる。

両手の巧みな包丁さばきで並べた食材や魔物を次々と料理していく。

その合間に鍋や炒め物も始め、まるで分身でもしているかのような手際の良さだ。


「おおっと! カサリナ選手さすがの手際のよさ! 次々と食材を調理していくそのさまはまさに料理の舞踏! 一方のミナ&キョウ選手は――あれ?」


と司会者の肩からがっくりと落ちたような間抜けな一言。

それもそうだろう。こちらは向こうのように食材を調理どころか、並べてもいない。

ただ妙なツボをいくつか台座にならべて、静観の構えなのだから。


「これはどうしたことだー! ミナ&キョウ選手! 食材に手をつけないどころか食材そのものがないぞー?! 唯一鍋の水を沸かしてるくらいだが、それで一体何をするつもりだー?!」


ちなみに沸かしてる鍋の湯はこれから作る料理には関係ない。別のものに使う予定だ。

だが、ある意味でそれが今回の料理の鍵を握る存在でもある。


そんなこちらの狙いがわかっているのかいないのか、カサリナさんは相変わらず華麗な料理さばきをしながら挑発するように声をかける。


「どうした? 自慢の栽培した魔物は使わないのか? よもや勝負を投げたわけでもあるまい?」


「あいにく、海鮮料理で使える魔物なんて一ヶ月ちょいで栽培できるわけないんでな。こっちはこっちの食材で海鮮料理に色をつけるだけさ」


「ほお?」


そして、そのためにはメインとなる海鮮料理の食材そのものが必要だ。

これに必要なのは奇をてらった技術でも、特別な料理の腕でもない。ただただ単純にそれの鮮度がすべてだ。


「だからリリィ、フィティス、ロック、ジャック……頼んだぞ」


オレはここにはいない仲間に全てを託し、彼女たちがこの対戦が終わるギリギリまで間に合うことを祈るのみだった。

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