第30話「再会は突然に」
中央大陸アガストラ。
そこで行われる年に一度の大料理大会。
そこには世界八カ国から選ばれた八人の味の名人達が集う。
料理人としての腕はもちろん、食材を厳選する手腕。更にはその食材となる魔物を狩る腕。それら全てが総合されて出されるのがこの世界の料理だ。
ゆえに大料理大会において単純な料理の腕だけでは決して優勝することはできず、むしろ高ランク食材の魔物を討伐できる勇者の存在こそが求められる。
だが、それだけではなくこの大料理大会では新たな『食の開拓』というテーマを第一としているらしい。
それがどういう意味かはオレにも詳しく分からなかった。
今、ここにその食の頂点を決定する大料理大会が開幕されようとしていた。
「うおー、すっげえ活気だなー」
大会となるその場所はコロシアムを連想させるような巨大なドームであり、中央にはまるで闘技場のような舞台が整っており、その周りを観客たちが興奮と歓声で埋め尽くしていた。
「はい! なんといっても世界一の食を決める大会です! これに優勝すればその人物の名は歴史に名を刻み、店を持っていればたちまち世界トップの七つ星認定! 望むならただの一般人ですら勇者の称号を与えられるほどの大会なのですから!」
お、おう。いつになく隣にいるミナちゃんが饒舌だ。
というかここまで闘志燃やしてる彼女は初めて見る。
「おお、来たか少年。そちらがお主の料理人か?」
見るとそこには先月温泉で出会ったフィティスの師カサリナさんがいた。
「いや、まあ、どっちかというとオレがこの子の食材提供者なんですけどね」
「ほお、そうなのか。まあ、それはいいとしてフィティスはどうしたのじゃ。今日は一緒ではないのか?」
「彼女は現在、食材の調達に向かっています。あなたとの対戦には間に合うはずですよ」
オレのその答えにカサリナさんは面白そうに微笑む。
やがてオレとカサリナさんがしばしの会話をしているうちに舞台に司会者と思しき人物が上がり、空気を振動させる魔法を発動させ、会場中にその声を響かせる。
「お待たせしました皆さん! この世界の料理の歴史を新たに塗り替える大会! 『食の開拓』! 大料理大会が開催されまーす!」
司会者のその宣言に沸き立つ観客。
そんな彼らの興奮に答えるように先を続ける司会者。
「ではまず、今回の大料理大会の出場者についての紹介を行いたいと思います! まずは栄えある前回の大料理大会の優勝者!」
司会者のその宣言に先程より一際大きな歓声が広がる。
その中で、オレの隣に立つカサリナさんは落ち着いた口調のまま、オレに警告するように囁く。
「来たぞ少年よ。よく見ておくがいい。おそらくはあやつこそが今大会における優勝候補じゃ」
カサリナさんが目で促す先、そこにいるのはオレより年下の少年。
褐色の肌に金の髪。童顔というよりもむしろ女顔と言うべき美少年が不敵な笑みを浮かべ立っていた。
「熱砂の王国アラビアルからの出場者! 前回の大会において彗星のように現れ、あの賢人勇者を打ち破ったまさに二つ名通りの天才勇者! シン=ド=バード選手!」
わああああああああああああ!!! と凄まじい熱気の歓声。
よく聞くとと女性の声もかなり多い。
まあ、確かに女受けしそうな顔をしているが、あいつなんとなく性格悪そうだわ。
「相変わらず勝って当然みたいな生意気な顔をしておるの。まあ、前回は儂も油断していたとは言え、あやつに負けたのは事実。しかし今回の儂の布陣に隙はない。そういうわけで少年よ。悪いが儂も去年の雪辱を果たすためにきた。一回戦であたったのが運の尽きと思っておもらおう」
「こちらこそ、雪辱の機会を与えられないかもしれませんが、恨まないようお願いいたします」
オレのその切り返しに愉快とばかりに笑うカサリナさん。
やがて、カサリナさんの名が呼ばれ、舞台に上がっていく。
そして残るはオレともうひとりの出場者だけになった。
「では次は東のエルクス王国からなんと小さな食堂屋が代表として出場! 過去大料理大会においてこれほど無名の出場者は異例! ミナ食堂屋より料理人ミナ選手と専属の魔物栽培師キョウ選手!」
オレ達の知名度に関してはここで聞く連中が初めてなのだろう。歓声よりも疑惑の声が多かった。
まあ、それも今のうち。今こそこの異世界に来てから鍛え上げたオレの魔物栽培能力の全てを存分に披露してやろう!
とオレがそんなドヤ顔で舞台に立った瞬間、耳を疑う声が聞こえてきた。
「おーおー、誰かと思ったら、お前恭司じゃねーか」
ん?
んんん??
いま、なにか聞こえたような。
いや、待て。待て待て。ありえない。そんなはずはない。
落ち着け、落ち着くんだ。
いま確かになにか聞こえたぞ。
それもめっちゃ聞き覚えのある、ここでは絶対に聞くはずのない声が。
「そして最後に今大会のダークホースー! なんと前回の大料理大会三位の実力者カマセ=ナナーシを予選の大陸大会において完膚なきまでに破った名も無き料理人にして今回大会二人目の魔物栽培師ー! ヒムロ=ケイジ選手ー!!」
「よお、久しぶり。お前、こんなところでなにしてんだ?」
舞台に上がってくる無精ひげを生やしたすげえ見覚えのあるおっさんにオレは思わず叫んだ。
「そりゃこっちのセリフだああああああああああ!! なんでここにいるんだよ親父いいいいいいいいいいいい!!!」
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