第33話「日本人の舌先は世界で一番繊細らしいですね?」
「お待たせした。こちらがキングクラーケンの天ぷら、色彩魚のワイン蒸し、サーペンスターの黄金焼き、そしてリヴァイアサンの水炊き鍋だ」
豪華絢爛。
まさにそう呼んでいい至宝の料理の数々が並べられ、それら全て大会の審査員メンバーの口へと運ばれる。
「ほお、これは素晴らしい。キングクラーケンの最も美味な九番目の足だけを天ぷらに揚げ、そのほかはすべて切り捨てるとは。Aランク相当の魔物をこれほど贅沢に調理するとは、まさに美味への追求」
「色彩魚も危険度自体はFランク相当だが、これはその名のとおり姿形や色すら周りの景色と同化し、はぐれメタルのように捕らえることが困難な魔物。それをこれだけの量を捕らえ、大胆なワイン蒸しに仕上げるとはあっぱれ」
「そしてなによりも目玉はやはりこのリヴァイアサンの水炊き鍋。至高の一品と呼ばれるリヴァイアサンの白身を損なうことなく水炊きによる出汁によって素材の旨みをそのまま引き出す調理法。まさにこれこそリヴァイアサンの味を最大限引き出す料理。見事なり賢人勇者よ」
うわ、もう審査員大絶賛の嵐ですわ。途中の審査員の感想に変なコメント紛れていたが、とにかく観客からも拍手喝采。
もうなんか勝負決まってみたいな流れでカサリナさんも勝利の笑み浮かべてこっち見てる始末だし。
ここから挽回するのかなりむずくね?
「さて、そちらは未だ調理どころか肝心の材料すら来ていないようだが、時間はいいのか? この料理大会には時間内に料理を仕上げられなかった場合は失格となるぞ」
ぐぬぬぬ。おっしゃる通りかなり厳しいです。隣りではミナちゃんが必死に祈っている。
オレは最後まで諦めないつもりだが、こうなってくるとさすがに不安になってくる。
そんなオレの不安を察したのか胸の中に隠れていたドラちゃんがひょこっと顔を出して安心するように微笑む。
「大丈夫ですよ、ご主人様。みんなは必ず来ますよ。ほらっ」
そう言ってドラちゃんが笑顔で指した先、そこにははるか上空から一匹の白い鳥がこの場所めがけ急降下してくる姿が見えた。
「――来たか!」
オレのその声に反応するように巨大な白い鳥、ロックちゃんから飛び降りる数名の姿があった。
彼女たちがそこへ降りると同時に、巨大な水龍の魔物がこの会場へと落ちてくる。
「遅くなり申し訳ございませんでした、キョウ様」
「リヴァイアサンはうまく仕留めたんだけど、ほかにも海の魔物をいくつか狩ってたら時間がかかってね」
そう言ってリリィ達が手に持った袋からはカチコチに氷漬けにされた無数の海の幸あらため魔物達が出てくる。
おおう、確かに鮮度が命とは言ったが、なるほど氷漬けか。
よく見るとリリィ達の背後に隠れるように雪の魔女イースちゃんがもじもじしているのが見える。
「これで少しはお役に立てたでしょうか、キョウさん。とうちのイースちゃんが言っています」
と彼女の代弁とばかりに、肩に乗っていたドリアードのドリちゃんが言う。
「もちろん」
オレは精一杯の笑顔と感謝をこめて親指を立てたサインを送る。
「どうやら材料は揃ったようじゃな。まさかお主達までリヴァイアサンを仕留めるとは。だが、残り時間から儂の料理を超える調理を行うのは難しいであろう」
カサリナさんの言うとおり彼女の洗練された調理法はまさに一級品。今日初めてリヴァイアサンを調理するオレ達よりも彼女のほうがはるかにその素材を活かしてた調理を行っているだろう。
「確かにまっとうな調理法じゃオレ達じゃあなたには勝てませんよ、カサリナさん」
「ほお?」
「だからオレはオレのやり方で小細工で勝負させてもらいます」
そう、まっとうな料理勝負では勝ち目はない。
だが、料理というのはうまい素材をうまく調理するだけじゃない。
気配り次第で、料理というのは化けるもの。
こと食においては繊細な舌先を持つ日本人独自の調理法。
海の
今こそ見せてやるぜ、賢人勇者様! オレが育てた魔物達による調理法を!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます