第98話「世界の真相」
「世界の、成長?」
帝王が発したその言葉に思わず聞き返す。
すると帝王は立ち上がり、オレが持つバッグをゆっくりと指す。
「その中を開き見てみたまえ。おそらく君が肌身離さず持っているであろう生命の樹の種、世界樹の種を」
帝王のその言葉通り、オレはバッグからアマネス、そして母さんから受け取った二つの種を取り出す。
すると先ほどの荷物の光はこのバッグの中の種から発せられたようであり、今もなおオレの手の中で二つの種が輝いていた。
そして、変化はそれだけではなかった。
「これ……芽が出てる?」
そう二つの種の中心に亀裂が走り、そこから巨大な芽が出ていた。
「先程、窓の外から光が見えたであろう。あれはおそらく君のいた街の方面からの光、すなわち君が最初に植えた世界樹の種が発芽した光であろう」
その帝王の言葉にオレは思い当たる節がある。
確かにこの世界樹の種を求めての旅に出る前、オレは街から少し離れた小高い場所に種を植えた。
あれから街に戻ってはたまにその場所を確認するのだが、それまでのどんな魔物とも違い、世界樹の種だけは一向に発芽する様子がなかった。
オヤジがそうであったようにオレにもこいつを成長させることはできないのか? とも不安になっていたが、まさかこのタイミングで発芽を? しかし、一体なぜ?
「本来、世界樹とはこうして芽吹くもの。ゆえにこの世界はそうした仕組みが存在した」
「仕組み? どういう意味だ?」
帝王の語りが漠然としすぎていて、オレは思わず答えを求める。
それに対し、帝王はハッキリと答えを断言した。
「すなわち人の
その答えを聞いた瞬間、オレはこれまでのこの世界における疑問が全て解消されるようであった。
世界。成長。人。世界樹。勇者。魔物。勇者制度。魔王。SSランク。役割。
つまりは――
「オレの成長が、オレが育てていた世界樹の種に影響を与えて発芽を促した。そういうことなのか?」
「その通りだ」
オレの答えに対し、帝王は満足げに笑みを浮かべて頷く。
「君が最初に女神と会った際、言われなかったか? 『君にこの世界の創世の続きを行って欲しい』と」
そういえば、そんなことを言っていたような記憶が。
「あの言葉の意味は、そのままの通りだったのだよ。現在のこの世界はまだ未完成、世界創世の途中なんだ」
「え?」
世界創世の途中?
いやいや、どう見ても完成されてるようにしか見えませんが?
あまりにも途方もない発言にオレは思わず呆気にとられるが、そんなオレに対し帝王はかいつまんで説明を行う。
「つまりこの世界はもともと人の成長によって完成される世界なのだ。女神が作ったこの世界はあくまで土台に過ぎない。それを完全な形へと進化させるのが、そこに住まう人々の役目。そして、世界を成長させるための人の成長がなにを指すかは君にも大体分かっているのだろう?」
そう言われてこれまでのこの世界における制度や魔物の役割などを考えれば自ずと答えは出る。
「肉体的、あるいは精神的成長。この世界で魔物を倒すことが生活の必須として取り込まれていたのも、そのためだったんだな。人が魔物を倒すことで成長を促すように。つまりはそれが魔物の役割ってことだな」
「その通りだ」
オレの答えに帝王は頷く。
「この世界はいわば人と世界を高みの領域に引き上げるために生まれた世界。そのためのシステムが施された世界ということだ。そして、君の言うとおり人の成長とは肉体と精神、その両方を指す。魔物を倒すことで肉体的な
「……そうした人の成長を促すために勇者制度というのを生み出したんだな。おそらくは魔王もそれと同じで人が成長を完了させるための最終的な目標、乗り越えるべき壁として用意された存在。リリィの話から推測すれば多分、SSランクの魔物がそれに値する存在ってことだろう」
「素晴らしい、その通りだ」
オレの答えに帝王は見込んだとおりとばかりに賞賛を与える。
どうでもいいけど、こいつの上から目線はやっぱなんかカンに触るなー。
「そして、人の成長がある一定まで到達すれば、生命の樹に存在した十の種全てがこの大地に芽吹き、新たな世界樹となる。その時、この世界の成長は完了し、世界は新たな進化した世界へと至る」
なるほど。
世界創世の途中っていうのはそういうことか。
「ちなみに、その世界になったら今の世界とどんな変化が起きるんだ?」
「それはオレにもわからない。全ては成長したあとにならなければな。ただ少なくとも、世界の進化に貢献した人間達には、それにふさわしい進化が与えられる」
「というと?」
「いわゆる人から神への
人から神への進化ー?
またスケールが大きくなってきたなー。
「君も女神に言われたかもしれないが創生スキル、すなわち無からなにかを生み出す力、あるいは新たに創り換えると言った能力は神の領分に値するスキルだ。それを有するということはその人物が神に近い領域に達したか、あるいはその資格を持っているということ。そして、この世界の成長が完了した際には、それらの創生スキルを持つ成長した人間は神への進化も行えるはず。言ってしまえばこの世界の成長とは、新たな天界と神々の誕生のための
ほへー、なんだか途方もない話だなー。
え、ってことはちょっと待てよ。
オレって前に女神様にその創生スキル持ってるって言われたよな。
で、現に世界樹の種を芽吹かせて、大樹への一歩に貢献してるわけだし、ってことは……?
「えーと、それってもしかして……オレも神様になれるってこと?」
「無論、君はその第一人者だ。世界の進化が完了した暁には君が望めば、君は人から神への
ま、ま、ま、マジっすかー?!!!
ちょ、おま!! 超展開過ぎて脳が追いつきません!!!
ファ――――――――――!!!!
ちょっと待った。
深呼吸。
一旦落ち着こう。
すーはー、すーはー。
よし、落ち着いた。
それじゃあ、もう一度頭から復習するぞ。
現在、この世界は創生途中の世界。
この世界の進化を完了させるには、そこに住まう人間の成長が必要。
人間を成長させるために、魔物や魔王と言った役割が存在した。
そして、人の成長がある一定まで進めば、生命の樹に存在した種が、この世界で世界樹となる。
世界樹が十本全て、この世界で大樹となれば世界の成長は完了する。
よし、把握。
理解した。
あれ、けど、ちょっと待てよ。
「それならオレの存在って別にいらなかったんじゃないか?」
話に聞く限り、世界を成長させるために勇者制度や魔物、魔王と言った役割は存在し機能していたように見える。
だが、それには帝王が静かに首を振る。
「君は知らないだろうが、この世界においてそうした世界への貢献をなしている人物は実のところ少ない。確かに勇者制度によって人の成長は加速した。が、その成長もある意味では停滞していた。なぜなら彼らは富と権力を求めるために勇者制度を利用している者が多いからだ」
なるほど。
確かに、最初にこの帝国に来た時にフィティスが言っていた。
以前の貴族制度から勇者制度に切り替わり、色々と改革がなされたと。
しかし、それは言ってしまえば制度が切り替わっただけ。
ある程度の地位や富を得た者がそこで成長を止めるのは考えてみれば自明の理であろう。
「勇者制度が作られる前もこの世界の成長は停滞した状態であった。貴族制度によって生まれそのものにあぐらをかき、自ら成長しようとあがく人間は少なかった。それを改革しようと勇者制度を広め、他国との小競り合いなど様々な手段を用いては人の成長を促進させようとしたが、微々たる効果しか与えられなかった」
そういうことか。
こいつがあえて帝王を名乗り、各陣営から嫌われるように仕向けていたのもある種、こいつが魔王の役割を兼任しようとしたということか。
暴君と呼べる己を打破すべき英雄を自ら奮起させるために。
「だが、そこに君が現れた。この世界において唯一、単独で世界樹を育てられる
そこまで聞き、今回の帝王の計画の全貌がオレにも見えてきた。
「つまり今回、オレの成長を促すことによってオレが持ってる世界樹の種を発芽させ、一気に世界への成長を早めたってことか」
「そうなる」
なるほどな。
ずいぶんと回りくどいことをする奴だ。
そのためにこいつは今までヒールを演じてったってわけか。
最初から最後まで利用されていたようで腹も立つが、こいつのおかげでオレの目的も達成できた部分もある。
けれど、いくつか腑に落ちない部分もあった。
「けどいいのかよ? 話を聞けば、本来はこの世界の住人が自ら成長して、世界樹を芽吹かせるのが本来の形なんだろう。それをオレみたいな第三者の手でズルして成長させて、それだと世界が進化しても人の進化は間に合わないんじゃないか?」
「それは確かにな。だが、この際、先に世界が進化してしまった形でも構わないのだよ。言ったように成長したこの世界ではその世界に住む人間はひとりひとりが神の候補生だ。自ら成長を完了させ神への進化を行う者もいれば、そのまま人としてその世界を過ごすのも自由であろう。なによりも今はこの世界の創世を完了させること。それこそが最優先事項なのだから」
そう呟いた瞬間、帝王の顔にこれまでにない焦るような、そして何かにおびえるような表情があった。
あの唯我独尊で傍若無人な帝王が、見間違いか?
そう思い、もう一度彼の顔を見るも、そこにはすでにいつもの表情が戻っていた。
「なんにしても世界の進化に関しては早いに越したことはない。その功労者である君や君の仲間たちはまず間違いなくその世界において神への進化も可能であろう。先程も言ったとおり、君にとっても悪い話ではないだろう」
いやいやだから! それ話が急展開すぎて、こっちはまだ受け止めきれてねーんだって!!
「以上がオレが君に伝える真実だ。もはやオレの役割もこれで終わった以上、あとの身は好きにするがいい。ああ、洗脳に関しても心配する必要はない。あれは長く続くものではないし、すでに君の知る者達への洗脳も全て解けている頃だろう。一応、記憶が戻ると同時に事情が理解できるように配慮はしておいたが、それでも君に対して行った行為は許されるものではないからな」
言って静かに帝王はオレの前に跪き、その首を差し出すように首を垂れる。
「さあ、この首好きにするがいい」
いやいやいやいやいやいや。
オレこう見えても普通の地球人ですから。
モラルとかマナーとか普通に守ってた善良な一般市民ですから。
人殺し? 何言ってんのこの人? NOに決まってんだろうが!
「最初に言ったであろう。君が勝ったらオレの身は好きにして構わないと。こう見えても契約は守るたちだ」
いや、そうは言われましてもねー。
と思っていると背後で我が妹がニコやかな笑みを浮かべて拳を鳴らしている。
「それじゃあ、とりあえず半殺しの刑ってことで覚悟してね☆」
怖い。うちの妹怖い。
とは言え、一応止めておくかとヘルに声を掛けようとした瞬間。
「……待て……」
背後から見知らぬ男の声が聞こえた。
見るとそこには黒い服を身にまとった長身の男とフィティス、イースちゃんの姿があった。
「イースちゃん! フィティス! ふたりとも無事だったんだな!」
「……は、はい! 無事に、フィティスさんを救出、できました……!」
「キョウ様。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」
ふたりの姿を見るや否やそう声を掛け、ふたりはそれに応えるように同時にオレに向けて飛び出し駆け寄ってくれた。
ちなみにフィティスに至ってはそのままオレの胸に抱きつき、それを見たイースちゃんが顔を真っ赤にし、ヘルに至ってはいつものように「あああー!」と叫んでいる。
「兄上……」
「……ロスタム。もういい、ここから先は全て私の責任だ……ある意味で、お前もまた被害者なのだから……もう、背負う必要はない……」
見ると、先程の長身の男が跪いたままの帝王勇者に駆け寄り、なにやら声をかけていた。
やがて長身の男がオレの方へ向き直るや否や、隣の帝王勇者と同じように跪き、オレに許しを求める。
「……栽培勇者キョウよ。今回の元凶、全てはこの私ザッハークの所業だ……ロスタムが行った暴君のような振る舞いも元を正せば私の所業……君が報復を望むのならばそれは私に対して行って欲しい……この帝王勇者は……私に利用されていただけなのだから……」
ザッハークを名乗る男のそんな唐突な告白にオレは再び困惑する。
一体どういうことだ?
そうオレが困惑していると、そのとなりでフィティスがなにやら確信を抱いたように断言する。
「――キョウ様、ここにいる帝王勇者ロスタムは本物ではありませんわ」
「は?」
そのフィティスに発言にオレは今度こそ意味不明という言葉が脳裏をよぎり、次なる言葉で完全に思考が停止した。
「そこにいる帝王勇者はあなたが記憶を操作し、帝王勇者を演じさせた別の誰か、そうですわね? 操作系の創生能力を持つ本当の勇者ザッハーク」
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